機械書房(本郷)4坪の真四角な空間にリトルプレスや詩集がずらりの“隠れ本屋”
「普通の本屋と全然違うんです」と、店主の岸波龍さん(39)が開口一番に。店は築63年のビルの3階にあり、「偶然見つけた」とは絶対にならない。「対戦カードゲーム店のように、人が小さな場所に集まって、盛り上がるイメージ」だそうだ。
「前は、新宿・花園神社の熊手を作ってたんです」と岸波さんが指す方向に、福々しい熊手が。熊手職人から本屋へってこと?
「ですね。いろいろありましたけど」
大学の専攻は詩。作家を目指し、仕事を転々とした後、熊手作りは性に合っていた。しかし、「ハネムーン先のバリ島で読んだ東浩紀の『クォンタム・ファミリーズ』に、村上春樹の『プールサイド』が出てきて。その中に『35歳は人生の折り返し』とあったのが妙に刺さった」のが33歳のとき。
ときに文学を論じ、ときに読書会に興じる“隠れ本屋さん”
35歳で、詩に関するエッセー本を自主制作して注目を集め、去年5月に本屋始動となったそう。屋号は、横光利一の短編「機械」などから。
4坪の真四角な空間に、約2000冊。壁際に古本、真ん中の“島”が新刊の配置だが、とりわけ新刊に、私には初見のものが多い。例えば、表紙に、怒りの表情の人が描かれた柿内正午著「会社員の哲学」、爪先立ちする女性の絵が映える大阿久佳乃著「じたばたするもの」。前者はリトルプレス(自主制作本)、後者は鎌倉のサウダージ・ブックスの刊行だ。惚れ込んだリトルプレス等は20冊、30冊の単位で一気に仕入れ、順調に売れるとのこと。すごい!
いわく「尖りすぎないために」版元製作の本も混在させるが、「速く、ぐりこ! もっと速く!」(百万年書房)、「本屋の周辺」(H.A.B)など小出版社の本が多数を占めるとか。
右手の平台には詩集がずらり。それこそ岸波さんの最も得意分野だ。谷脇栗太「ペテロと犬たち」、柊月めぐみ「星降る森の波音」、森田直「乾かない」がこっちを見ている。
岸波さんと世界観が似た人たちが、SNSを見てどんどんやって来る。ときに文学を論じ、ときに読書会に興じる“隠れ本屋さん”だ。
◆文京区本郷1-5-17三洋ビル36号室/JR中央・総武線・都営三田線水道橋駅から徒歩5分/月・火・金・土曜の12~19時
ウチらしい本
「『細雪』の詩学」平中悠一著
「4月10日が発行日ですが、ウチが世界最速で販売を始めました。なぜなら、谷崎潤一郎『細雪』の読書会を開こうと思っているから。副タイトルに『比較ナラティヴ理論の試み ナラトロジー、ノン・コミュニケーション理論、日本の物語理論』とあるように、『細雪』の詩的な文章や、三人称視点に着目し、現代文学的かつ世界文学として価値を考察しており、読書会を前に読んでおきたい一冊です」
(田畑書店 5500円)