「ジジイの文房具」沢野ひとし著
「ジジイの文房具」沢野ひとし著
人生の傍らにはいつも文房具があり、それらは宿題や原稿に苦戦する著者を応援し、ときには旅のお供として寄り添ってきた。そんな長年にわたる数々の愛用文房具についてつづったイラスト&エッセー18編と15のコラムを収録。
筆記具の中でも、鉛筆やボールペンと比べると素直にこちらの思い通りに動いてくれないという万年筆。著者の記念すべき初万年筆はモンブランの「山型リング」で、20歳の頃、京都の丸善でバイト代をはたいて購入したものだった。
持ち歩き、詩など書き写して文学青年気分に浸っていたが、旅の記念に絵を描こうと三条大橋でモンブランを手にしたとき、なんと、手から滑り落ち鴨川の流れに消えていった--。
山登りにはコクヨの小型ノートとファーバーカステルのシャープペンがお決まりだが、ヒマラヤでは寒さにやられ、スケッチはまるで幼児が描くつたない絵で、メモは「頭が痛い」「しんどい、もう山にはいかない、疲れた」と泣き言ばかりになった。また、マンスリータイプの手帳には、打ち合わせと称して毎晩飲み歩いていたある夜、妻に「手帳を見せなさい」と詰め寄られて渋々開いた思い出が宿っている。
鉛筆削りからハサミ、電子辞書に至るまで、お気に入りを選び、使う楽しさが伝わってくる。
(集英社クリエイティブ 1870円)