「オランウータン森のさとりびと」前川貴行著

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「オランウータン森のさとりびと」前川貴行著

 ボルネオ島に暮らす野生のオランウータンたちの姿とその生態を伝える写真絵本。

 世界には大型類人猿が4種いるが、そのうちゴリラとチンパンジー、ボノボはアフリカに、オランウータンだけが東南アジアに生息している。

 オランウータンは、熱帯のボルネオ島に生息するボルネオオランウータン、その西隣のスマトラ島に生息するスマトラオランウータンとタパヌリオランウータンの3種に分類されるそうだ。

 大型類人猿全種の撮影を志す著者は、ゴリラとチンパンジーに続いて、オランウータンに会うため、ボルネオ島のインドネシア領を訪ねる。オランウータンがすむジャングルに行くには、クロトックと呼ばれる船をチャーター、川を半日ほどかけてさかのぼらなければならない。ジャングルでは、寝泊まりも食事もクロトックが拠点だ。

 上流に向かうにつれ、川幅は徐々に狭くなり、川を覆うようにそびえる大木の枝と枝の間をテングザルやテナガザルが行き交う。

 最初のフィールドに到着し、上陸してジャングルのけもの道を進むと、オレンジ色の塊が樹上に現れた。両頬が張り出した「フランジ」と呼ばれるオスのオランウータンだ。

 フランジとは張り出した頬のことだが、フランジが発達したオスそのものを指す言葉でもある。

 オランウータンのオスは、活動するエリアで立場が強くなると顔の側面が徐々に張り出して顔が大きくなる。その現象は強くなったオスだけに限られ、弱いオスにはフランジはできず、そのメカニズムはまだ解明されていないという。

 フランジオスは、大きなのど袋で声を共鳴させてロングコールという雄たけびをあげるのも特徴だ。

 体重80キロ以上にもなる巨大なフランジオスに近寄るには神経を使い、自分が危険な人間ではないことを分かってもらうように心がけるという。そうして撮影された堂々たるフランジオスは、こちらの心の奥まで見透かすような澄み切った瞳をしている。

 またあるときは、幼い子どもを連れたメスのオランウータンと出会う。

 メスの体格はオスの半分ほどで親しみやすいという。赤ちゃんは3年ほど母乳で育ち、7歳から10歳で親離れをする。野生動物の親子がこれほど長く一緒にいるのは珍しく、人間に近いものを感じる。

 子どもはとても好奇心が強く、撮影している著者の服を引っ張ったり、髪をさわったりしてくるそうだ。

 そんな幼い子どものつぶらな瞳を見ていると、言葉は通じなくても、心と心が通じ合うような気さえしてくる。

 ボルネオ島とスマトラ島で7万頭ほどのオランウータンが生息しているそうだが、その数は100年前の5分の1まで減少したとし、ジャングルが破壊されている現状なども伝える。

 夏休み、子どもと一緒に読みたいお薦めの一冊だ。

(新日本出版社 1980円)

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