「TOKYOレトロ探訪」レトロイズム編著
「TOKYOレトロ探訪」レトロイズム編著
昭和が終わってはや35年が過ぎた。金融恐慌とともに始まった昭和は、いくつかの戦争、敗戦からの復興、高度経済成長、オイルショックを経た後、バブル経済の最盛期に幕を閉じた。それは、まさに人の一生のように浮き沈みの激しい激動の64年だった。
そして、今、令和の時代に、遠くなったはずの昭和がなぜかブームになっている。
令和を生きる人々が、携帯電話もSNSもネットもない昭和になぜ惹かれるのか。その答えがこの本には詰まっている。
東京近郊の昭和を感じさせてくれるスポットを紹介するビジュアルブックだ。
まず登場するのは、昭和にひとときのタイムスリップが楽しめる古き良き時代の風情が残る喫茶店だ。
そのひとつが、東京・柴又にある、その名もずばり「昭和レトロ 喫茶セピア」。前店主の長谷沢貴世子さんが、かつて読んだ少女マンガの「りぼん」や「なかよし」の作品の中に登場する可愛い喫茶店を自分もやってみたいと始めた店だそうだ。
開店こそ平成24年と歴史はそんなに古くはないのだが、一歩足を踏み入れると、店内は膨大な昭和グッズが所狭しと飾られ、まさに昭和そのもの。
アイドルのポスターや牛乳箱のようなグッズ、さらには回転式チャンネルのテレビや冷蔵庫、洗濯機など当時の家電まで。
「あの頃のことを思うと、また頑張ろうと思えるんですよね」と語る長谷沢さんが愛する、あらゆるモノや事柄にパワーがあふれていた昭和30年代から40年代の品々で埋め尽くされた店内。お客さんも「ここにくると5歳くらい若返る」と言ってくれるそうだ。
ほかにも、昭和33年の開店から「煎りたて、挽きたて、淹れたて」にこだわり続けてきた老舗の「神田珈琲園」や、元々は寄席の新宿末広亭に出演する噺家などの芸人の楽屋として使われていたその名も「喫茶 楽屋」など。レトロカフェ9店をめぐる。
街中に残る昭和の名建築を紹介するコーナーでは、今年2月に惜しまれつつ休館した御茶ノ水の「山の上ホテル」も取り上げられる。
アールデコ様式の個性的な建物は、元々はホテルではなかったが、占領期に連合国軍に接収され、昭和29年にホテルとして生まれ変わったという。そんな歴史とともにホテルの細部にまでこだわった意匠を紹介する。
ほかにも、昭和時代にリリースされた中古レコードを集めた「ディスクユニオン昭和歌謡館」など、昭和歌謡にどっぷりと浸れるお店をはじめ、映画看板やマッチなどの昭和の日用雑貨の商品パッケージ、さらには駄菓子屋を再現したコーナーまである東京・青梅の「昭和レトロ商品博物館」、テーマパーク全盛の時代に「遊園地」という呼称が何ともぴったりくる群馬県前橋市の「るなぱあく」など。
あらゆる角度から昭和に浸れるお勧め50の「遺産」を網羅。
あなたの行ってみたい「昭和」がきっと見つかる。 (朝日新聞出版 1760円)