枡野浩一(歌人)
8月×日 選者として今年4月からレギュラー出演しているEテレの番組「NHK短歌」収録日。毎回、各界の著名人をゲストに呼ぶことができるのだが、その候補として面識ある映画監督の名前をいくつか、プロデューサーさんにお伝えした。高校の国語教科書にも短歌が載った歌人の僕が、お笑い芸人を目指し始めたのは11年前、44歳のときだった(今年5月から事務所タイタン所属のピン芸人)。当時の所属事務所SMAの先輩、ぶらっくさむらいさんは今、自分の会社をつくり、映画監督もやっている。監督名は本名、武内剛。ご自身の生き別れの父を探すドキュメンタリー「パドレ・プロジェクト/父の影を追って」は、8月末から全国公開予定だ。武内監督の母は日本人、父はアフリカ人。2歳から会っていない父を探そうと決意したのは40歳のときだったという。この映画に推薦コメントを寄せた僕には生き別れの息子がいて24歳……3歳のときから会っていない。彼も40くらいになれば、父親に会おうと考えるんだろうか。それまでは、うっかり死んだりしないよう、気をつけないと。
8月×日 先日重版された枡野浩一、pha、佐藤文香の共著「おやすみ短歌」(実生社 2750円)のリーダー的存在だったphaさんの新刊「パーティーが終わって、中年が始まる」(幻冬舎 1540円)がXで多くの議論を呼び、男女論にまで発展している。論じている人の多くは同書を読まずに、書名のイメージだけで語っているのではないかと疑っている。40代になり、青春という「パーティー」が終わってしまった気分を抱える著者の、さまざまな肩の凝らない「生活と意見」が書かれたエッセー集なのだ。ところどころに本紹介が出てくるのがいい。たとえば橋本治著「失楽園の向こう側」(小学館 680円)には《人は何か人生に行き詰まりを感じているとき、その状況から自分を救い出してくれそうな存在に恋をする》旨が書いてあるらしい。僕の結婚と離婚は、まさに、それだったと思う。