著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

PASSAGE by ALL REVIEWS(神保町)「鹿島茂さんという“資源”を最大限に生かそうと始めました」

公開日: 更新日:

 あら、変わった本屋さん。と見つけたのはコロナ禍後期だった。シェア型書店がまだまだ珍しかった2022年3月、神保町での、その最初の店としてオープンした。今やお客がひっきりなし。すずらん通りの名所化している。

 ホームページを見て、仏文学者の鹿島茂さん経営の店と思いきや、若干ニュアンスが違った。リクルート出身で、アーカイブの書評サイト「オールレビューズ」を運営する次男の由井緑郎さん(42)が代表で、「僕の持つ“資源”を最大に生かしてできることを、と始めました」とおっしゃる。

「ん? 資源とはお父さまのことですか?」

「はい、そうです」

 新感覚の用語づかいに驚いたが、開店経緯を聞いて膝を打った。

「埋もれちゃってる、先人たちが書いた品質の良い書評をデータ化して読めるようにと立ち上げたのが『オールレビューズ』ですが、ここはその実店舗版なんです」と。

そうそうたる作家らが書評した本と著作がずらり

 棚は362ある。そのうち多数が、そうそうたる作家や研究者らの棚で、書評した本と、彼らの著作が並ぶ仕組みだ。

 約60平方メートル。足を踏み入れるや否や、右手に、新刊「上野がすごい」を面陳列した柳瀬博一さんの棚。「関東大震災がつくった東京」「小泉今日子の音楽」などを書評なさったのね……と拝見。上下左右、後ろの棚に目をやるに、四方田犬彦、中島京子、原武史、大竹昭子。

 心の中で「すごいすごい」と叫びながら進むと、うわー荒俣宏だ、内田樹だ、俵万智だ、谷川渥だ、井上ひさし(遺族が出店)だ。鹿島茂の棚で、その名も「パリのパサージュ」のページをめくり、パサージュとはガラス製アーケードに覆われたパリの商業空間のことだったのね、と呟いたり。青土社が「書店では売れない本たち、半額」と書いて、小さな傷のある「あいぬ物語」「スティッチ」などを並べていたのも印象的。

「書評関係以外で棚を持ってくださっているのは、ひたすら本好きの一般の人ですね。もっと言えば、僕と同じで『本が好きな人が好き』という感じの人」と由井さん。ひと棚月額4000円から。「少し空いてます。どうぞ」とのこと。神保町界隈などにあと3軒稼働中でもある。

うちの推し本

「子供より古書が大事と思いたい」鹿島茂著

「1996年の講談社エッセイ賞受賞作。鹿島さんが子煩悩な父であったら、鹿島茂たりえなかった、と今では思います。この本に出てくる、パリの古本屋を連れ回されている2歳の息子も、アンジェで古本探しから戻ると、車の中で百科事典の上で寝ていた小学生の息子も僕。父がいかに激しい古書収集魔だったか、さまざまつづられています。面白いので、おすすめです」

(青土社 2420円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  2. 2

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  3. 3

    元フジ中野美奈子アナがテレビ出演で話題…"中居熱愛"イメージ払拭と政界進出の可能性

  4. 4

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い

  5. 5

    芸能界を去った中居正広氏と同じく白髪姿の小沢一敬…女性タレントが明かした近況

  1. 6

    中居正広氏と結託していた「B氏」の生態…チョコプラ松尾駿がものまねしていたコント動画が物議

  2. 7

    中居正広氏、石橋貴明に続く“セクハラ常習者”は戦々恐々 フジテレビ問題が日本版#MeToo運動へ

  3. 8

    中居正広氏が女子アナを狙い撃ちしたコンプレックスの深淵…ハイスペでなければ満たされない歪んだ欲望

  4. 9

    中居正広「華麗なる女性遍歴」とその裏にあるTV局との蜜月…ネットには「ジャニーさんの亡霊」の声も

  5. 10

    SixTONES松村北斗 周回遅れデビューで花開いた「元崖っぷちアイドルの可能性」