「ゆびさきに魔法」三浦しをん著
「ゆびさきに魔法」三浦しをん著
月島美佐は、弥生新町駅前の富士見商店街でネイルサロン「月と星」を営むネイリスト。もう1人ネイリストを雇いたいと思いつつ1年が経った頃、「月と星」の数軒隣の居酒屋「あと一杯」の常連客・大沢星絵が大将・松永の巻き爪を診てくれと連れてやってきた。それが縁で星絵は美佐のアシスタントとして働くことに。星絵はネイリスト2級だが、センスはあるようだ。飲めば酔っぱらいと化すが、案外真面目で熱心だった。
二人馬力になったサロンにはさまざまな客が訪れるようになる。子育てが忙しくストレスを抱えるママ、ネイルが好きなのに大っぴらにできない国民的俳優、女性経営者……。仕事は順調、明るくて子犬のように懐いてくる星絵もかわいい。
しかし一方で、美佐はどんどん自信をなくしていく。星絵の人との距離をあっという間に縮める能力、自由奔放だが繊細で緻密なデザイン。どれも自分にないものだった。思い詰めた美佐は、ある決断をする……。
「家事をしていない」「チャラい」などと揶揄されがちなネイルを題材に描くお仕事小説。若く才能のある後輩を目の当たりにし、自分の長所が見えなくなってしまう美佐の姿は、働く人なら一度は経験があるだろう。
悩みながらも美佐が自分を認めるまでの心の揺れが丁寧に描かれており、思わず応援をしたくなる。
(文藝春秋 1980円)