「死神」田中慎弥著

公開日: 更新日:

「死神」田中慎弥著

 中学2年のとき、本気で死への衝動に駆られた主人公の「私」は、「死神」に出会った。実はその兆候はそれ以前からあった。校舎のベランダ、遮断機の下りた踏切、赤信号の横断歩道、紐、コード、無防備な刃物などから喚起される想像に浸っていたからだ。

 そんななか、ついに通学路の途中にあるビルに引きつけられ、猫に導かれるようにして黒ずくめの姿をした「死神」と名乗る男に出会ってしまった。直接手を下すのではなく、自殺することが決まっている者が、自殺するのを見届けるために傍らにいるという死神は、それから「私」のそばに現れては時に「まだかまだか」とささやくようになる。家では父親が母親と自分に暴力をふるい、学校では周囲から孤立していた「私」は、果たして「死神」の存在から逃げることはできるのか--。

「冷たい水の羊」で第37回新潮新人賞を受賞しデビューして以降、川端康成文学賞や芥川賞などの各賞を総なめにしている著者による最新作。死への誘惑と葛藤を抱える男を主人公に、周囲や自身に向ける鋭くナイーブな感性でとらえた危うい世界を幻想的に描いている。

(朝日新聞出版 1870円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    相撲協会の逆鱗に触れた白鵬のメディア工作…イジメ黙認と隠蔽、変わらぬ傲慢ぶりの波紋と今後

  2. 2

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    《2025年に日本を出ます》…團十郎&占い師「突然ですが占ってもいいですか?」で"意味深トーク"の後味の悪さ

  5. 5

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  1. 6

    中居正広の女性トラブルで元女優・若林志穂さん怒り再燃!大物ミュージシャン「N」に向けられる《私は一歩も引きません》宣言

  2. 7

    結局《何をやってもキムタク》が功を奏した? 中居正広の騒動で最後に笑いそうな木村拓哉と工藤静香

  3. 8

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 9

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 10

    高校サッカーV前橋育英からJ入りゼロのなぜ? 英プレミアの三笘薫が優良モデルケース