「スバらしきバス」平田俊子著
「スバらしきバス」平田俊子著
バスをこよなく愛する詩人によるエッセー。
夏の夜、中野駅の近くで用事を済ませ家まで歩いて帰ろうとしたとき、ふとバスターミナルを見ると「江古田の森」行きのバスが止まっていた。初めて見るバスだった。そもそも江古田に森などあったろうか。気になるけど、時間は夜の9時過ぎ。こんな時間に行ったら「悪党たちが待ち構えていて身ぐるみはがされるに決まっている」と思いつつ、引き返して乗り込んでみる。(「森にいく」)
別の日には、行き先の「北野」がどこかも知らずにバスに乗り込み、またあるときはかつて住んでいた町を通って美容院までバスで。乗客たちを観察したり、揺れてぶつかってきた客に遠い少女時代の思い出が蘇ったり、バスで過ごす豊かでちょっと切ない思いをつづる。 (筑摩書房 924円)