本で旅する Via(荻窪)「本を持ち込みここで読書を」が基本の路地裏ブックカフェ
路地裏に佇む、相当古そうな木造の一軒家だ。木戸を開けた途端、同行カメラマンも私も「ほぉー」。ハモってしまった。
ダークグレーの端正な空間が、隠れ家のごとく広がっていたからだ。壁際に1000冊ほどの本が並び、木づくりの重厚なカウンターに5席ほど。さらに半個室も2カ所(と、2階にも2席)。カウンター上に田中一村の画集と、アンティークな地球儀が置かれていた。
コーヒーやクラフトビール、マフィンなどを楽しめるブックカフェだが、特長は「本を持ち込み、ここで読書を」が基本なことと、店内に並んでいる本(閲覧・購入可)がすべて“旅先”の本であること。
「前職は旅行会社勤務でした。私が何度も添乗したのはアジア、中東、旧ソ連。顧客に送付する旅の情報誌を作る部署にも長くいて」と、店主の伊藤雅崇さん(54)。職務上の必要性もあり、読んできた旅先の本あまた。そうした経験を生かして独立するには、と10年ほど模索し、出した結論がこの店。「本を読む場所と、本であちこち旅してもらう場所を合体させたんです」。都内各地の「古本市」などで仕入れ、2022年6月にオープンした。
店内に並ぶのはすべて“旅先”の本 コーヒーを飲みながら閲覧も
ではでは、本棚拝見。「入り口側からアジア、中国インド、北米、中南米、オセアニア、アフリカ、ヨーロッパ、ロシアの順です」と伊藤さん。「太平洋ひとりぼっち」と「漂流の島」が隣り合い、5、6冊離れて「ラバウル温泉遊撃隊」。ふむふむ、常盤新平「ニューヨークの古本屋」も私に手招きしている。おっと、「お産椅子への旅」「児童文学の旅」もあって、旅の概念は広いもよう。
「影響を受けた一冊は?」と聞いてみる。伊藤さんが取り出したのは、文化人類学者・小川さやか著「『その日暮らし』の人類学」。帯に「借金を返さなくてもよい仕組み」とある。
「タンザニアの商人の中に入って、フィールドワークして書かれたんですが、人生は直線ではないとね。私も失敗してもいいやとこの店を(笑)」
2階はギャラリー。時折、旅の入り口になる映画の上映も行われる。
◆杉並区天沼3-9-13/JR中央線・総武線、地下鉄丸ノ内線荻窪駅から徒歩6分/月・木・金曜13時~17時45分(セルフカフェ)・18~21時ごろ、土・日・祝日13~21時(いずれも入店は閉店時間の1時間前まで)。火・水曜休み。
私の推し本
「イリノイ遠景近景」藤本和子著
著者は、1967年に渡米。イリノイ州でトウモロコシ畑に囲まれた家に住む翻訳者。聞き書きの名手でもある。
「旅しただけでは分からない、現地のことがとてもよく分かるエッセーです。実は私も今、読んでいる途中なんですが、すごく面白い。主流にいる人のことではなく、傍流にいる人のことが書かれているからでしょう。ナヴァホ族の保留地で働く中国人女性の話も出てきます」
(ちくま文庫古本売価 700円)