「家の神さま」鶴岡幸彦著 西岡潔写真
「家の神さま」鶴岡幸彦著 西岡潔写真
八百万の神々という言葉があるように、古来、日本人は森羅万象に神の存在を感じてきた。やがて仏教が興隆すると、こうした原始信仰の神々も、仏像にならって形を持つようになり、さまざまな信仰と融合して独特な変化を遂げていった。
本書は、庶民の祈りや思いを受け止めてきた「民間仏」とか「民衆仏」と呼ばれる木彫の素朴な神さまの写真集。
山の神像は、「山を守り司る」神さま。マタギや木こりなど山で働く人や農民など多くの民に信仰された。その姿はどこか異国の貴人風だ。
左手に乳飲み子を抱いた女性の像は、子安観音あるいは慈母観音と思われるという。しかし、その顔は慈愛とは相反する厳しい表情をしている。北東北でつくられた木彫ゆえに、厳しい風土に立ち向かう強烈な意思に裏打ちされた母心なのではないかと著者は推測する。
「オシラサマ」は、東北を中心に信仰される家の神さまで、一般的には養蚕の神だが、農業や馬の神でもあり、目の病や女性の病気にも御利益があるとされる。この神さまは、布でつくった衣を重ねて着ており、貫頭型と頭部まで布に覆われた包頭型がある。
ほかにも、天神さまを祭る神社でよく見かける「寝牛像」のミニチュア版ともいえる「撫牛」や、山人(マタギや木こり、炭焼きなど)が入山する際に山神の怒りに触れぬよう持参した人形の木切れ「サンスケ」、そして大黒や不動明王、稲荷狐や招き猫などの現代人にもお馴染みの神さままで。
地域の大工や木地師、あるいは素人の手によってつくられた素朴な像は、長年、囲炉裏の煙などにいぶされてすすけ、それがまた貫禄となっている。
人々に生きる希望を与えてきたその姿は、現代人の心をも浄化する不思議な力に満ちている。
(大福書林 3300円)