レコード会社11社が競作 「山口さんちのツトム君」
6月になると、レコード会社は次々に「山口さんちのツトム君」の発売に名乗りを上げた。結局11社が競作することになった。「みんなのうた」で歌っていた東京放送児童合唱団の川橋啓史(小3)はコロムビア、RVC、ポリドール、CBSソニーの4社。東芝が水森亜土、ビクターが小鳩くるみ……。何といっても話題はフォノグラムが起用した斎藤こず恵(小3)。当時、大ブレークしていた子役である。
斎藤は74年春から放送された朝のNHK連続テレビ小説「鳩子の海」でデビュー。ヒロインの子ども時代を演じた。広島に落とされた原爆のショックで記憶を失うという難しい役だったが、あどけない表情がお茶の間の共感を呼び、視聴率はうなぎ上り。最高視聴率は53.3%、平均でも47.2%という驚異の数字を叩き出した。「山口さんち――」は11社合計で150万枚以上を売り上げたが、やはり一番売れたのは斎藤のシングル。1人で49.9万枚をセールス。これは10歳未満の歌手としては皆川おさむ「黒ネコのタンゴ」の223.5万枚に次ぐ数字だった。“だった”と過去形なのは2年前に記録が抜かれたからだ。