「あさひるばん」やまさき十三監督
高校時代、白球を追いかけた男たちが人生半ばを過ぎて再会し、原点を見つめ直す。「釣りバカ日誌」などの漫画原作者、やまさき十三氏(72)の初監督作品は、中高年サラリーマンへのエールを込めた人情コメディーだ。
――初めての演出で心掛けたのは?
「長年『釣りバカ』に関わらせていただいており、誰もが楽しめる喜劇にするということです。サラリーマンの働く環境を見ても、あまり良い時代とは思えませんよね。どんなに一生懸命働いていても、肩叩きなどによってそれらが一瞬にして、無価値にされたりしている。そこで生き抜くにはトップギアで頑張るしかないのかも知れませんけど、たまにはギアをセカンドに落とそうよと。映画の3人組と共に故郷を見直し、純情で熱い仲間といた頃を思い出してもらいたいなあと。会社一途(いちず)でいるより、何か別の価値観があったほうがタフになれるんじゃないかと思うんです」
――それはご自身の人生訓でもあるのですか。
「結局ぼくは、自分のやりたいことはできませんでした。もともとは野球少年で、宮崎の大宮高校で社会人を目指したんですけど、腰を痛めて駄目に。その時、『抵抗』『スリ』といったヌーベルバーグの作品を見て、すごいなあ、いいなあと思ったのが映画なんです。それで早稲田の演劇専修を出て、東映で助監督を約10年やりました。ところが、村山新治監督らについて、『キイハンター』でいざ監督をという時、会社に契約者の権利を求める労働争議に加わっていたので、会社を辞めることになってしまいました。野球を断念したのと同じくらいの無念さがありましたけど、この時は漫画原作の道を大学の仲間に紹介してもらえた。『二足のわらじが履けるほど甘くないよ』と言われ、映画からすっぱりと足を洗ったつもりでいました。世の中そう思い通りにはならない」