<第2回>高倉健は中国で愛され尊敬される日本人だった
【君よ憤怒の河を渉れ (1976年・大映)】
原作は西村寿行の小説。東映を退社し、フリーになった高倉健の出演第1作だ。無実の罪を着せられた検事が国内を逃亡しながら事件の真実に迫るというもの。北海道で熊と渡り合ったり、なぜかセスナ機を操縦して本州に戻ったりとリアリズムを追求する観客が見たら、「なんだこれは」と思うが、ノンストップアクションの娯楽作として楽しめる。共演している中野良子は美しい。しかも、独特の雰囲気を感じさせる。
この映画がいま見直されているのは「中国で大ヒットした」からだ。高倉健の訃報が発表された日、中国の外務省、共産党は哀悼の意を表し、メディアは日本の総選挙のことよりも、「高倉健が亡くなった」と大きく報道した。それくらい、彼は中国で愛され、尊敬される日本人なのである。
本人はこう語った。
「1986年、日中友好協会の招きで、吉永小百合さん、田中邦衛さんと中国を旅しました(略)。飛行機の中で邦ちゃんがこう言ったんです。『健さん、中国へ行ったら大変ですよ。出会う人がみんな〈君よ憤怒の河を渉れ〉の話ばかりする。一説によると、あの映画は10億人が見たらしい。共演していた僕でさえ、空港税関の係員に追い回されたのですから』。