“故郷”NHKに錦を飾った 朝ドラ女優・瀧本美織の表現力
【連載コラム「TV見るべきものは!!」】
土曜ドラマの秀作「破裂」に続き、ドラマ10「わたしをみつけて」の舞台もまた病院である。しかし、こちらの主人公は医師ではなく准看護師だ。
弥生(瀧本美織)は、生まれてすぐ病院の前に捨てられ、養護施設で育った。自分の“居場所”を守るため、子どもの頃から「いい子」であることを自分に課してきた。
一種のトラウマだ。勤務する病院で、院長(本田博太郎)の誤診が原因で患者が死亡する。隠蔽する院長と、患者の命を守ろうとする看護師長(鈴木保奈美)。自分の殻に閉じこもっていた弥生も、がん患者の菊地(古谷一行)との交流を通じて変わり始める。
決して明るい物語ではない。ヒロインの内面も複雑だ。しかし瀧本美織の繊細な演技が見る者を引っ張っていく。また鈴木保奈美の存在感と余裕のアシストも、ドラマ全体に大きく寄与している。
瀧本といえば、2010年秋のNHK朝ドラ「てっぱん」を思い浮かべる人は多い。大阪でお好み焼き屋を再開させようと奮闘したヒロインは、当時19歳だった。あれから5年。宮崎駿監督作品「風立ちぬ」の菜穂子もよかったが、今回その表現力を再認識させられた。
このドラマの制作はNHK大阪。制作統括の三鬼一希は、「てっぱん」のプロデューサーでもある。修業の旅に出ていた朝ドラ女優が、成長して故郷へと帰還したのだ。
(上智大学教授・碓井広義=メディア論)