ピース又吉&綾部は足りないモノを補い合う“理想の関係”
それは本業のお笑いにも生かされている。例えば、あまり知られていないが又吉は独創的な一発ギャグの使い手でもある。直立不動で真っすぐ跳びはねながら「僕は恐らく、殺されるだろう」と言う。上体を前後させて両腕を横に振る謎めいた動きをして「国家にとってよからぬ思想を持っています」と言う。こういうギャグには、受け手にその背景となる物語を想像させるような力が秘められている。その場の乗りと勢いを重視する他の芸人の一発ギャグとは、ひと味違う深みがあるのだ。
又吉にとって幸運だったのは、綾部祐二(38)という自分とは何もかも対照的な気質を持った相方に恵まれたことだろう。綾部は社交的で遊び好き。最近では又吉を「先生」と呼んでこびへつらっている。外につながることにたけた綾部と、内に深く掘り下げることにたけた又吉の相性は抜群。
ピンでの活動が目立つ2人だが、足りないものを補い合う理想の関係を築いているのだ。
(お笑い評論家・ラリー遠田)
▽らりー・とおだ 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東大文学部卒。テレビ番組制作会社勤務を経てフリーライターに。現在はお笑い評論家として取材、執筆、イベント主催、メディア出演。主な著書に「逆襲する山里亮太」(双葉社)など。