映画は“ドラマ”だけど、テレビは“チック”を描くのが神髄
倉本 この世界に飛び込んだ当時、「構成力が弱い」と指摘されたことがあるんです。それで(黒沢明監督作品などの脚本を書いた)橋本忍さんや菊島隆三さんとかのシナリオをいったん書き写し、今度は時系列の起承転結に戻すみたいなことを繰り返して勉強した。そして見えてきたのが映画の〈ドラマ〉とテレビの〈チック〉でしたね。
碓井 ちなみに「やすらぎの郷」で代表的な〈チック〉のシーンは。
倉本 ミッキー・カーチスと山本圭と石坂浩二が海岸でしゃべるお馴染みのシーンがあったでしょう。まさにあそこは、〈チック〉。物語の進行にはさして影響がないシーンで、「死んだ女房にあの世で会うとき、ボケた女房がいいか、昔の女房がいいか」とかウダウダと話すだけ。
碓井 見ている側もつい自分に置き換えて考えてみたりして。視聴者の日常と地続きなんですよね。
倉本 テレビドラマでは、ああいうシーンこそ大事だと思っています。
碓井 「やすらぎの郷」のシナリオは倉本脚本の特徴である〈間(ま)〉という文字があまり書かれていません。あれだけの役者さんたちだから、脚本で細かく指示しなくても大丈夫だと思われたのでしょうか。