主役俳優の美学貫く 田村正和の引退にみるスターの引き際
プロスポーツの世界には「引退」があり、有名選手の引退会見の言葉は度々、語り草になる。
芸能界に目を転じると、「引退」したはずが撤回して復帰する人もいるように、完全なる引退は少ない。必然的に正式な引退会見も聞かないが、二枚目俳優としてドラマ界を代表する顔だった田村正和(74)が静かに引退宣言した。すでに親しい人には今年の年賀状で「のんびりしたい。無職の日々が楽しみです」と挨拶していた。それを受けた形で先月、週刊誌の直撃取材に「もう僕は十分やったよ」とあっさり引退を決めたという。
きっかけは2月に放送された田村の代表作のひとつ「眠狂四郎」シリーズの集大成「The Final」の試写を自ら見たことだった。田村は「もうだめだなあ」と悟ったという。デビュー当初こそ脇役だった田村だが、後は主演でしかも二枚目役者として貫き通してきた。一時、「キザでセリフが聞き取りにくい」といわれたこともあったが、いつしかキザも田村の魅力。
「自分自身に対してのこだわりも強いのがスター。自己診断も厳しくなる。試写をチェックしたとき、ビジュアル、立ち居振る舞い、セリフ回し、声などから納得いかなかったのだろうと推測する。職人と同じで、自身が納得しないものをお茶の間に提供することはできない。それができなくなったら潔く引退するのは、田村の役者としての美学だと思う」(演劇関係者)