<9>円丈師匠から「こぶ平に負けないパーティー」と命令が
きん歌(4代目円歌の二つ目時代の名)は、善兵衛荘の家賃を払うため、廊下を会場にした落語会を開いた。
「円丈師匠だけでなく実験落語会のメンバーの柳家小ゑん、立川談之助の兄さん方も出てくれて、廊下にぎゅうぎゅう詰めで130人も入りました。ビールケースを積んでこしらえた高座で落語を演じたら皆さん大喜びで。円丈師匠と兄さん方はノーギャラです。とりあえず滞納した家賃を半分払って、残りのお金で打ち上げをしました」
善兵衛荘には、その後2年半住み続けた。
「円丈師匠に、『さよなら善兵衛荘』という落語会だったのに、いつ出るんだと突っ込まれました。その部屋を出たのはテレビに出たおかげです」
1981年に始まったフジテレビの「らくごin六本木」は、気鋭の若手真打ちと二つ目が出演する画期的な演芸番組だった。きん歌はこれに出演し、高校時代の同級生を主人公にした「田畑クン」と「松岡クン」、小学生の幇間「一八クン」などを演じ、視聴者の絶大な支持を得た。
「4回目に出た時に『寿の春』をやることになって、スタッフがテレビ向きの演出を考えてくれました。クライマックスで高座に紙吹雪を降らせ、ピンスポットを使い、サゲの後に海援隊の『思えば遠くへ来たもんだ』を流しました。演劇的だと好評でした」