「世界のクロサワ」の看板で渋る堀江しのぶの両親を説得
愛知県西春日井郡在住の高校3年生は、芸能界デビュー前からすでに光を放つダイヤモンドの原石だった。
多くの芸能プロダクションが野田よりも前に触手を伸ばしていた。所属タレントもまだいない野田のイエローキャブという無名のプロダクションが、堀江しのぶというダイヤモンドの原石を獲得するなど不可能に思われた。
野田は逆転に賭ける。
「うちは黒沢明監督の長男、黒沢久雄が立ち上げたちゃんとしたプロダクションなんです。知ってるでしょう? 黒沢監督。『七人の侍』『影武者』、最近では『乱』っていうのも撮ったし」
“世界のクロサワ”は劣勢を挽回するキーワードだった。野田は彼女の両親に会うところまでこぎ着けた。あとは野田義治最大の技を発揮するしかなかった。それは熱意だった。
「娘さんをぜひ預からせてください。東京に出てきたら、住まいも食費もレッスン代も一切こちらで引き受けます。しのぶさんは東京の子たちにはない魅力があります」
野田義治と話をしていていつも思うのは、声に誠実さがこもっていることだ。この男はウソはついていないな、と思わせる熱さを感じるのだ。