「人間合格」太宰治の半生から節操なき“戦後日本人”を描く
津島家のために選挙運動で現金を配るなど俗物そのものの中北。しかし、戦争が終わり、民主主義の世の中になると手のひらを返したように、民主主義バンザイをする節操のなさ。
井上ひさしは「古ダヌキめ! この前まで天皇バンザイで今は民主主義か。それじゃあんまり天皇さまがかわいそうじゃねえか」と修治に叫ばせる。
鵺(ぬえ)のような中北のしたたかさ、下劣さは、反省するどころか何食わぬ顔で戦後民主主義を謳歌(おうか)する「日本人」の心性そのものではないか。
井上が喝破するように、天皇制絶対主義から民主主義へといともたやすく鞍替えする日本人は戦後75年の今、戦争の代償である平和憲法をあっさり手放そうとしている。泉下の井上も歯噛みしていることだろう。
含羞の青柳、直情の塚原、軽妙の伊達。3人がそれぞれの持ち味を生かし、生き生きと役を演じていた。
芝居を統べる中北は名優すまけいに当てて書かれた役。今回、前進座の俳優・益城を抜擢。新劇初出演、慣れない津軽弁と荷は重かっただろうが、誠実な演技で舞台を引き締めた。
北川理恵、栗田桃子の2人は16役を早変わり。舞台の躍動感は彼女たちの奮闘のたまもの。
演出=鵜山仁。23日まで新宿・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA。その後、山形、宮城、兵庫、愛知と地方巡演。
★★★★