弟子入りを請う俺に立川談志師匠が放った奇跡の言葉
しかし、その一言は俺にしたらアポロ11号で人類初の月面着陸を成し遂げたアームストロング船長の「私にとっては単なる一歩だが、人類にとっては大いなる一歩である」と同じ価値があったのだ。
「よっしゃー!! 立川談志の弟子になれた!!」とその途端に、頭の中にバラが咲き乱れて太陽やお星さまがキラキラとまたたき、有頂天極まりないこととなったのか? はたまた師匠の言葉がまだ信じられず、頭の中でたった今起きたことを何度も何度も反芻して固まっていたのか? 奇跡の日であったというのに、その師匠の言葉以降のことは何一つ覚えていない、記憶から抜け落ちているのだ……。
おそらくは、弟子入り成功の祝杯と称してどこかの居酒屋あたりに入り、高さんの十八番、アントニオ猪場を見せられていたことが想像できるのだが……。
西武新宿線の武蔵関の駅から徒歩10分ほどのところに立川談志の住居があった(何かの事情があり、家族は新宿の小滝橋通りのマンションに住んでいた)。
数日後から俺はそこに毎朝通うこととなるのだが、一応身元だけははっきりさせておく意味もあって、埼玉の両親の挨拶という運びとなったのだった。