ひそかに狙っていた談志師匠のお嬢様からメールが届いた
ある時、俺が先輩の談之助兄さんに「別居してるってのは夫婦仲がよくないんですかねえ? 奥さんかわいいし、師匠との関係もまったくそういうふうには見えないですけどねえ?」と尋ねると、その答えは予想をはるかに超えたものであった。「おかみさんがね、ホラ、新宿の伊勢丹が大好きなんですねぇ。で、練馬の師匠の家の近所に伊勢丹ないでしょう? だから伊勢丹に歩いて行けるマンションで別々に暮らしてるんですねえ」と!!
最初はからかわれているものとばかり思っていたのだが、月日が流れていくうちに、それこそが真実であると知り、それをきっかけに「有名人の奥さんというのはみんな伊勢丹や三越や高島屋などなど有名百貨店の近くに別居生活しているものなのなんだろうなあ……」と20代半ばまでは本気で思い込んでいた俺だったのだ……。
そんな伊勢丹好きのお母さまと暮らしているゆみこさんは当時俺より何歳か年下……確か二十歳のまぶしいまさに王女さまのような存在だったのだ。 そりゃ、そーですよ! こっちはどこのどいつともわからない両手に師匠の荷物ぶら下げた駆け出し芸人、片やあちらさまは天下の立川談志の娘というだけでも水戸黄門の印籠を見せられているようなモノなのに、それを抜きにしても大都会新宿のマンションに暮らすヤングギャル(出た~昭和)だってんだから、釣り合いがとれるはずがないのだ!! えっ、釣り合いって……まさか? そー、そのまさかを若かりし頃の俺は虎視眈々と狙っていたのだ!!