「新東宝スターレット」6期生のオーディションに中学3年生の沢村忠の姿が
渦中にあって“経営陣にも組合側にもどちらにも与しない”という第3勢力が現れた。戦前の時代劇スター、大河内伝次郎とその一派である。長谷川一夫、山田五十鈴、原節子、高峰秀子らと「十人の旗の会」を結成し、百数十人の社員やスタッフで設立されたのが「新東宝」である。
東宝常務だった佐生正三郎を初代社長に迎えた新東宝は、当初、争議によって製作機能が停止した東宝本社の配給で新しい作品を生み出す、いわば「製作専門の下請け会社」といった性格を帯びていたが、程なくして東宝が製作部門を再開すると、独立路線をとった佐生社長は追われるように社長の座を退いた。後任には、またしても小林一三の異母弟でプロボクシング帝国拳闘会(現・帝拳ボクシングジム)初代会長の田辺宗英が就任。おそらく、小林一三の意向にほかならず、東宝との合併を念頭に置いた人事だったと見ていい。
しかし、4代目社長に迎えられた“興行界の梟雄”大蔵貢は、新東宝を事実上買収し、純文学路線から一転「安く、早く、面白く」「テスト1回、ハイ本番」などのスローガンを掲げた「エログロ路線」を志向。「早撮りの巨匠」の異名を取った渡辺邦男を呼び戻し、嵐寛寿郎主演「明治天皇と日露大戦争」(監督・渡辺邦男)は観客動員2000万人、配給収入約6億円という、当時としては空前絶後の大ヒットとなった。