「PLAN75」早川千絵監督の才能を激賞 そして「倍賞千恵子を見るための映画」と断言できる
「2025年問題」という言葉がある。団塊世代全員が後期高齢者となる同年、日本は5人に1人が75歳以上の超高齢社会を迎える。「PLAN75」はこの予測を踏まえているが、企画の大きな契機になったのは、2016年7月の相模原障害者施設殺傷事件。当時を言及した早川監督のコメントが作品公式サイトにあった。
「人の命を生産性で語り、社会の役に立たない人間は生きている価値がないとする考え方は、すでに社会に蔓延しており、犯人特有のものではない。政治家や著名人による差別的な発言も相次いで問題になっていた」
第3次安倍内閣の時代だった。殺傷事件の前月、麻生太郎副総理は、将来の不安をあらわにした90代を「おまえ、いつまで生きているつもりだ」と揶揄した。
麻生さんはあのとき何歳だっけ? 調べてから鳥肌が立った。まさに75歳だったから。
作品に希望があるとすれば、若い登場人物の「気づき」だ。磯村勇斗と河合優実(両者名演!)扮する心優しき若者たちは、プラン75の普及と施行に尽力してきた。だがある日気づく。自分は無自覚なまま、非人道的極まりない政策に加担してきたのでは。そして動く。世界を回すにはいつも若い力が必要であることを、監督はセリフ少なく、でも力強く訴える。
早川監督がカンヌ映画祭で表彰されてわずか3カ月半の9月13日、かつて同映画祭の粉砕事件を首謀した巨匠ジャン=リュック・ゴダール監督がスイスで亡くなった。享年91。疲労困憊を理由にした安楽死だった。なんとも示唆的ではないか。