サッカーW杯はABEMAがNHK・民放に圧勝の衝撃! 地上波からスポーツ中継が消える日
「媒体力低下でスポンサー離れ」
前出の杉山氏が言う。
「視聴者のテレビ離れによる媒体力の低下で民放局にスポンサーが付きにくくなっています。テレビ局は広告収入で利益を出す。スポンサーが付かないと話にならない。しかも、W杯が終わってしまえばその後は利益につなげることが難しい。一方、ABEMAのようなネットメディアは違います。W杯を全試合生配信することで自社媒体を宣伝し、その後の新規契約につなげたりする“販売促進”という意味合いが強い。将来的に利益を生むことを見越しているから、投資として大金を支払えるのです。例えば、DAZNがJリーグと2100億円+収益分配の契約で17年から10年間、全試合独占放送の権利を得たのが良い例です(20年に139億円+新たな収益分配で2年延長の再契約)。ただ、こちらは回収できるかどうか不透明ですが……」
■来年3月の野球WBCにはアマゾンプライムが参入
民放関係者によれば、来年3月に開幕する野球のWBCの中継もテレビ朝日とTBSの他に、アマゾンプライムが名乗りを上げて放映権を購入したという。
ウェブメディアは収益の出し方も多種多様だ。ボクシングの世界戦や格闘技はすでにテレビではなくネット観戦が主流となっているが、そこでは「PPV(ペイ・パー・ビュー)」という方式が取られることが多々ある。利用者が視聴したい試合やイベントごとに料金を支払うという手法だ。
■PPVで25億円超の売り上げ
「PPVの始まりはアメリカです。米国は番組ごとの有料放送というスタイルが確立されていて、例えば格闘技の生放送では1試合分を購入するか、1ラウンドごとに料金を支払うかを選べたりもした。1970年代後半から浸透していきましたが、現代の日本ではそれがネットのみで行われています。だからこそ、スポンサー頼みの日本のテレビ局は厳しい立場に置かれている。取って代わるように、ネットメディアの勢いは加速するでしょう」(杉山氏)
6月に行われたボクシングの那須川天心-武尊戦はテレビ放送されず、ABEMAでのPPVのみで配信された。視聴者への販売価格は5500円(一般)だったが、ABEMAによると契約件数は50万件超。25億円以上を売り上げ、国内史上最大の利益を叩き出した。
スポーツの観戦様式は変わりつつある。テレビはスポーツ中継から駆逐されるのか。
「苦しくなっていくでしょうが、テレビの存在意義にも注目が集まっています。ドイツ戦の勝利で日本中が感動に包まれました。テレビ放送されたことにより、もともと興味がなくても『やっていたから』と観戦した人もいたでしょう。お茶の間で家族が見ていたから一緒に観戦するケースだってある。ラグビーで話題になりましたが、“にわかファン”はスポーツを盛り上げるために非常に重要な要素です。ネットによる個別配信で見たい人にだけ届けるのではにわかファンは生まれにくいし、感動の輪も広がりません。視聴者やスポンサーがこれをどう受け止めるのか。スポーツ中継においてテレビ界は岐路に立っています」(杉山氏)
正念場を迎えつつあるテレビの未来はいかに──。