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松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

「スマイルカンパニー契約解除の全真相」弁護士を通じて山下達郎・竹内まりや夫妻の“賛成事実”を確認

公開日: 更新日:

どうしても飲み込めないことが一点だけあった

  ☆ ☆ ☆

 SCは6月末での契約終了を強く求めてきたが、業務の引き継ぎを考えるとそれはあまりに性急だとぼくは感じた。せめて8月末まで待ってほしいと希望を伝えたのだが、SCはあくまで6月末にこだわったので、ぼくも折れるしかなかった。契約終了の合意書の作成にあたっては素人の手に負えないので、かねてからその仕事ぶりに敬意を抱いていた喜田村洋一弁護士に代理人をお願いした。

 この期に及んでも、どうしてもぼくに飲み込めないことが一点だけあった。周水社長からの報告という形でしか聞いていない山下夫妻の〈賛成〉だ。周水くんを疑ってはいない。ただ、四半世紀におよぶ付き合いのなかで自分が知る達郎さん、そしてまりやさんなら、本当に〈賛成〉するだろうか。その疑問が払拭できなかった。

「義理人情」という言葉はたしかに重い。それはいいだろう。だが、その形は、時代にあわせてしなやかに変わっていくべきではないか。紙風船のように。

 周水くんとの信頼関係を考えれば、だからといって達郎さんに直接コンタクトを取るのはやはりためらわれた。ぼくは喜田村弁護士に、先方の代理人を務める弁護士へ尋ねてもらった。「松尾は、『山下氏と竹内氏が契約解除に賛成している』と社長から説明を受けているが、それは事実か」と。返ってきたのは「そうである」。この回答を確認したぼくは、契約終了の最終合意に応じた。

 SCとの業務提携を終了後の初日となった7月1日のツイートは、事実関係に基づき一言一句を喜田村弁護士が確認済みの140字だった。達郎さんの名前を出したのは、彼とぼくの両者を知る人が当然抱くであろう疑問に予めお答えするためであり、それ以上の意味はないことを強調しておきたい。人生のなかで優先するものの違いに気づくのに、ぼくは少々時間がかかったということだ。

 奇しくもその翌日(2日)、東京・中野区の中野サンプラザが閉館して50年の歴史に幕を閉じた。最後の日のステージに上がったのは、サンプラザ最多公演数を誇る達郎さんだった。真夏のように暑い日曜日、サンプラザに響いたのはエンド・オブ・イノセンス(無邪気の終わり)を描いて秀逸な名曲 「さよなら夏の日」だろうか。あるいはSnow Man目黒蓮出演CMで話題の新曲「Sync Of Summer」だったのか。

 ☆ ☆ ☆

■社会的弱者に寄り添う眼差しは…

 昨年6月に発表された山下達郎11年ぶりの力作アルバム『SOFTLY(ソフトリー)』は大した評判をとった。その中でもぼくが白眉と位置づけるのが、ゆったりとした、しかし骨太のリズムで歌われるビル・ウィザーズ調の「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」である。

 アフガニスタン、香港、ミャンマーなどの騒乱に想を得て21年までには書いていたと本人が語る歌詞は、社会的弱者に寄り添う眼差しがすばらしい。古参ファンであれば、名曲「蒼氓」を思い出さずにはいられないだろう。そして否応なくロシアのウクライナ侵攻も連想させる。この自作自演歌手が高い社会意識を持ち〈炭鉱のカナリア〉としての機能を備えていることのあざやかな証左となる1曲だ。

 山下が声を振りしぼって熱唱する言葉たちは、まさにぼくの現在の心境とシンクロする。

「許してはならないこと あったはずじゃなかったのか ねえ、違うの? なぜ、言えないの? 何も、出来ないの? どうして? どうして? 何も言えないの? どうして? どうして?」

(了)

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