歌舞伎俳優研修出身・中村芝のぶここにあり 吉例顔見世大歌舞伎で強い印象を残す
主人公のカルナはいわゆる優等生タイプのキャラクターで、菊之助のイメージにはぴったりなのだが、芝居というのは毒のある悪役・敵役のほうが魅力的に見えるもの。この芝居でも、芝のぶと隼人のほうが強い印象を残す。菊之助はそれを分かった上で配役しているのだろうから度量が大きい。
夜の部最初は、片岡仁左衛門の『松浦の太鼓』。仁左衛門は昨年12月に京都・南座で演じているが、東京では2002年以来。松浦侯は、周囲を振り回す身勝手な殿様なのだが、仁左衛門は愛嬌たっぷりに、可愛ささえ感じさせる。家臣たちに愛されている殿様で、新鮮だ。
続く『鎌倉三代記』では、中村時蔵と梅枝がそれぞれ初役で、三浦之助とその許嫁・時姫をつとめる。意外にも、時蔵は三浦之助どころか、時姫も本公演では演じていないのだ(勉強会で演じたことはあるそうだ)。この家にはあまり縁のない芝居なのに、2人とも「初めて」さが、まったく感じられない堂々たるもの。
時姫は相手が何を考えているか分からない。江戸時代に作られた古典なので、理不尽な状況にある可哀想なお姫様が普通だが、時蔵・梅枝は一歩踏み込んで、近代的な心理劇に仕上げている。
夜の部2つは、何度も上演されている芝居が、役者によってこうも変わるのかと、うならせる。
(作家・中川右介)