R-1覇者 街裏ぴんくは嫁の「一般社会じゃ絶対無理やからお笑いで稼いでこい!」に救われた【特別インタ後編】

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 3月に行われた「R-1グランプリ2024」で優勝。唯一無二の“虚構漫談”が、苦節20年にしてようやく日の目を見た。比類のない芸はどのようにして生まれたのか、虚構の世界の裏側に迫る。

 ──優勝が決まった瞬間の男泣きが印象的でした。

 名前の札がめくれていくときに親と嫁さんの顔が脳裏に浮かんで。そしたらもう無意識に泣いてました。親には借金が100万以上、嫁なんか「私が稼ぐから」って働きづめで。結婚してから11年経つのに1回も旅行すら連れて行ったことがないんです。2022年に芸人を辞めようと思って嫁に伝えたタイミングがあったんですが、「何が一般社会や。何回嘘ついてバイト辞めてきたと思うてるん。絶対に無理やからお笑いで稼いでこい」と言われて。その言葉に救われました。

 ──奥さんがいなかったら優勝はなかったかもしれませんね。

 ほんまそうですね。嫁はものすごいお笑いファンで、笑いのセンスも信頼してます。だから、新作ができたら、ふわっと嫁に聞かせるんですよ。そうすると偉そうな顔しながら「後半はこういう展開の方がいいな」とか言って、相談相手になってくれます。それ以外にも「ケンコバさんとジュニアさんと関係性ができたんだから『にけつッ!!』(読売テレビ)出れるようにこんなことせな」みたいな細かいマネジメントまで。優勝決まった瞬間は、テレビの前で僕と同じポーズで膝から崩れ落ちたみたいなんで、“街裏ぴんくの半分”かつ、プロデューサー兼マネジャーみたいな感じですかね。

 ──苦節20年。そうしてできた漫談がようやく世に出ていきました。

 ほんまはもっと早くいろんな人に見てほしかったですよ。大好きだった志村けん師匠も立川談志師匠にも、ほんまに見てもらいたかった。志村師匠が亡くなられたときは、ショック過ぎて。「チズニナイマチ」っていう持ちネタがあるんですが、いなくなったことにしたくなくてネタ中に登場させましたからね。コロナ禍のユーチューブ配信で披露したんですが、ほんまに志村師匠に会えた気がして、ネタ中に号泣してしまって(街裏チャンネルで視聴可能)。自分の嘘で泣くってどういうことやねんと、自分でびっくりしましたけど(笑)。

 ──立川談志さんは「落語はイリュージョン」と表現していました。ぴんくさんにとって漫談とは?

 僕は“逃げ場所”やと思っています。たとえば、上司に怒られたときに逃げられる穴があったら最高じゃないですか。そんな感覚でみなさんを空想の世界に連れていきたいし、僕自身も浸っていたいんです。談志師匠の「イリュージョン」は、自分の漫談よりもっと奥の深いものですけど、爆笑問題の太田さんが「おまえは師匠がずっとやりたかったことをしている」と言ってくれてうれしかったです。師匠が亡くなった日は今でも覚えていますね。「いい加減売れなアカン」と思って嫁と上京して、「さあ、これから」と物件を探そうという日の朝で。ああ、遅かったと。もし、漫談を見てくれていたら、どんなダメ出しくれたんかなあ。=おわり

(聞き手=橋爪健太/日刊ゲンダイ)

▽街裏ぴんく(まちうら・ぴんく) 1985年2月6日生まれ、大阪府出身の39歳。トゥインクル・コーポレーション所属。主な受賞は「Be-1グランプリ2022」優勝。「R-1グランプリ2024」優勝。7月23日に大阪、7月24日に名古屋、8月5日に東京で、澤部渡(スカート)×街裏ぴんく異種混合ツーマンライブ「VALETUDO QUATRO 2024」を開催。チケットは各プレイガイドで好評販売中。

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