桂米朝師匠は上方落語の古典として演じられている演目の数多くを掘り起こした
高座で語られた噺はもちろん、米朝師匠の所作も丁寧で正確。たとえば、棚から物を上げ下ろしする時も、高さはいつも一定であったり、実際にはない物があたかも存在するかのように緻密な表現をされていました。これから落語界を背負う若手噺家だけのお手本でなく、NSC養成所の生徒たちにも「ぜひ、動画を見て所作を学ぶように」と伝えています。
お弟子さんのざこばさん、枝雀さんらが、米朝師匠のコピーになることなく、自由に形を変えて演じてこられたのも「桂米朝」というしっかりとしたお手本があったからこそだと思っています。
こんな話もありました。その頭の良さ、こまやかな気遣いがお気に入りだったハイヒールのリンゴちゃんと楽屋で米朝師匠が話をしているときに「三枝師匠(現.6代文枝)がご挨拶に来られました」とお弟子さんから声がかかると、
「今、リンゴと話してるから後にしてくれるように伝えといて」
慌てたリンゴちゃんが「(米朝)師匠あきませんて! 私が怒られますから」「かまへんがな、先客なんやさかい」と笑われたとか。リンゴちゃんはすぐにその場を失礼したそうですが、こういう気さくな一面も持っておられたことを聞くと、どこかホッとする米朝ファンの私なのです。