「三匹が斬る!」の“千石”が当たり役も時代劇に安住なかった
役所広司は、「親戚たち」(1985年・フジテレビ系)で初めて現代劇の連続ドラマに主演した。これは彼の故郷・長崎県諫早市を舞台にした群像劇で、脚本を書いたのは役所広司の兄と学校の同級生だったという同郷の市川森一。
このドラマをたまたま見ていたのが伊丹十三で、彼は監督第2作「タンポポ」(85年)に、食通でギャング風の“白服の男”役で役所を起用する。さびれたラーメン屋を山崎努扮するトラック運転手が人気店に変えていくというメインストーリーの間に、さまざまな「食と欲望」に関するエピソードをちりばめたこの映画で、狂言回しのように時々現れる白服の男は、彼の情婦を演じた黒田福美との間で行われる「卵黄口移し」シーンのエロチシズムと合わせて、強いインパクトを残した。
ただこれで役所広司が時代劇俳優のイメージから脱したかといえばそうでもなくて、87年からテレビ朝日系で始まった「三匹が斬る!」では高橋英樹、春風亭小朝と共に主役の一人、“千石”の愛称を持つ素浪人・久慈慎之介を演じた。旅の道中でそれぞれ武芸の達人である3人の浪人が、土地の悪を倒していくこの痛快娯楽時代劇は好評を博し、95年まで計7シリーズが作られる。役所は第6シリーズこそ初回スペシャルだけの出演だったが、他はレギュラーで豪快な殺陣を披露し、時代劇俳優の印象を一層強くした。