『Shall we ダンス』映画賞総ナメは40歳で…遅咲きのスターはいかにして名優になりえたか
【役所広司論】#1
製作にも名を連ねた主演作「PERFECT DAYS」(2023年)で第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞をはじめ、日本アカデミー賞やキネマ旬報ベスト・テンの主演男優賞にも輝き、10月25日公開の新作「八犬伝」では、主人公の「南総里見八犬伝」の原作者・滝沢馬琴を演じている役所広司。今や日本を代表する世界的な俳優になった彼だが、映画俳優として花開いたのは、「KAMIKAZE TAXI」(95年)を一つの予兆として、「Shall weダンス?」「眠る男」「シャブ極道」の主演3作品によって各映画賞の主演男優賞を総なめにした96年からで、当時40歳の遅咲きのスターであった。役所広司は、いかにして名優になりえたのか。その経歴と人物像を、約30年にわたって彼を取材してきた私の経験を交えながら探っていきたい。
役所広司は1956年に長崎県諫早市に生まれた。自伝的な事柄も書いた著書「監督の油」を読むと、子どもの頃はメンコやビー玉、コマなど勝負ごとの遊びに明け暮れていたという。両親に連れられて、幼い頃に片岡千恵蔵主演の「多羅尾伴内」シリーズ(46~60年)を見た記憶があるそうだが、さほど映画や芝居に興味はなかった。思春期を迎えて東京に出たいという思いが強くなり、東京の公務員試験を受けて合格し、高校卒業後に上京。千代田区役所土木部道路課で働き始める。