俳優・篠井英介さんはなぜメルカリにハマったのか?「マイペースでのんびり売買が信条です」
捨てる罪悪感から解放された
私の故郷・金沢の工芸品・加賀手まりをまとめて売りに出したこともあります。実家に帰ったとき目に入ったのですが、とってもキレイな刺繍が施された手まりなのに、とくに愛でられている様子はない。きっと両親が昔、誰かからいただいたか、買ったか、したのでしょうけどね。
そこで、「これ、いらないならもらっていくよ」と弟に承諾を取って引き取り、私が持っていた手まりと合わせて5個をまとめて出品しました。全部で2万円ぐらいの値を付けたら、これもすぐに売れました。もしかしたら、まとめて出品した方が、コレクターには喜ばれるのかもしれませんね。
中古品の相場より、私は安く出しているのかもしれません。市価の半額以下の値段を付けるようにしていて、中古品売買での相場を調べてはいないんです。送料を考慮したらトントン、というときもありましたが、お金のことはあまり気にしていません。儲けよう、とは考えていないので。それよりも、私の代わりに活用していただきたい、喜んでいただきたい、という気持ちなんです。
私としては、捨てなくて済んだ、という気持ちが大きい。高価で未使用のものや、いただきものを捨てる、というのは罪悪感がありますよね。
メルカリで買ったこともありますよ。お気に入りのブランドの香水を。数回試しに使っただけの香水が、デパートよりだいぶんお安く売られていますから。
ヤフオクで買ったこともありますよ。メルカリに売っていなかったので、ヤフオクにも挑戦し、舞台用の小道具の帽子につける羽根飾りや、日本舞踊で使うための蛇の目傘を買いました。きれいに梱包して送ってくださってうれしかったです。
これまでトラブルになったことはありません。トラブルにならないよう、出品する際には商品の説明を正直に書くように心がけています。そして、写真は明るい窓辺で、商品がよくわかるように撮影しています。
メルカリは売る側だけでなく、買う側も名前や住所を明かさず取引できます。だから、私の物を買ってくださったのが、どこの誰かわかりません。わからないからこそ、丁寧な言葉遣いを心がけ、売買が成立したら、「明日には発送できそうです」などとこまめにご連絡を入れるようにしています。
商品発送の際の包装も丁寧に。カップなどの割れ物は、プチプチでひとつひとつ包み、段ボール箱に納めます。私は必ずお手紙をつけるんです。「ご購入くださりありがとうございました」などと一筆箋にしたためると、「きれいな梱包、お手紙もつけてくださって、ありがとうございました」といったメッセージをくださる方もいます。どこかの誰かが認めてくれたみたいで、うれしくなります。
こうしたささやかなコミュニケーションは、会社をリタイアして社会とのつながりが薄くなりがちな高齢のサラリーマンには、社会との楽しいつながりになるのではないでしょうか。
(聞き手=中野裕子)
▽篠井英介(ささい・えいすけ)1958年、石川県生まれ。84年、男優だけのネオかぶき劇団「花組芝居」に参加し、看板女形として人気を博す。退団後は、変幻自在の演技派俳優として活躍。92年、第29回ゴールデンアロー賞演劇新人賞受賞。2014年、石川県観光大使に任命される。23年、第58回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。日本舞踊の宗家藤間流師範名取・藤間勘智英の名を持つ。12月22日まで、東京・明治座(中央区日本橋浜町)で上演される舞台「応天の門」に出演。