漫画家・倉田真由美さん「人生を変えたのは無名の私にかかってきた一本の電話」
恥も外聞もなく自分をさらけ出したネタが「だめんず」
連載が決まってからは恥も外聞もなく自分のことを全部、さらけ出してやろうと思いましたね。そのネタが「だめんず」。ダメ男につかまっちゃった話は仲間内ですると、すごく受けた。ダメ男と付き合った話は私にとっても、自分の恥ですから、それまでは割り切ることができなかったけど、これに賭けるしかないと思いました。
今でも思い出す印象的なのは例えば、愛犬をむちゃくちゃかわいがっている男の話。彼女が犬のご飯のことを餌と言ったら、「餌じゃなくてご飯だろう」と言われて殴られたとか。まったく歯を磨かないし、風呂にもめったに入らない不潔な男の話も忘れられないですね。男がカリカリ梅を食べた時に、梅に白い歯垢がついた。それを見ていた彼女が男に「おまえも食べるか」って言われたとか。その話は気持ち悪くてトラウマものですね。
そもそもだめんずは私の別れた人の話がきっかけです。別れてから「それまでおまえにかけたお金を返してくれ」というFAXがガーッと流れてきた。口座にお金を振り込んでください、と。そのインパクトは強烈でしたね。あの光景は今でも思い出せますから。
■子供と遊ぶのが大好きだったバツ3夫
1年前に亡くなった夫との出会いも私の人生を変えました。最初はパーティーでチラッと顔を合わせただけでした。ガッツリ話をしたのはその後、仲がいい中村うさぎさんに紹介してもらった時ですね。それまでうさぎちゃんから「くらたまのタイプじゃない?」と言われた人が何人かいたけど、だいたい外していた。でも、夫は初めて当たりました。
第一印象からよかったですね。話が面白くて明るく、好みのタイプでした。ただ、金遣いはダメな人でしたけど。結婚と同時に自己破産しましたから。債務がなくなる代わりにいろんな人に不義理をする。普通ならそれで同じ業界にいられないと思いますが、夫は平気な顔で居座っていた、そういうずぶといところも好きでした。
夫はバツ3でした。性格が合わなくて、人とぶつかるのが原因です。私とは相性がよかったし、喧嘩もしたことがないです。私はバツイチです。元の夫との子供が1人と、亡くなった夫の子が1人。子供は2人。子供がいることでいろいろ後悔しなくて済みます。
夫、子供のことで記憶していることは多いですね。夫はともかく子供の世話をする人でした。小さい時から子供を遊びに連れて行くのがライフワークになっていた。夫が家族サービスで子供の世話をすることを、妻が喜ぶというのが普通ですけど、夫の場合、それが楽しくて行っていた。むしろ私の方が家族サービスに付き合っていた感じかな。
関東近県の子供が遊べるところはほとんど行ったと思います。すべてがいい思い出だし、夫と子供が一緒に遊んでいる風景は私の宝です。私が家族と一緒に写っている写真はあまりないのに、私がカメラマンになって夫と子供が一緒に写っているのはいっぱいある。こういうお父さんに育てられるのは幸せだなと思いますね。
よく覚えているのは長野に行って、2人乗りのリフトに乗った時です。夫が子供と一緒で、私はその前のリフトに乗って、後ろの2人を撮ったのですが、娘が「父ちゃんが怖いと言ってるから、私が脚で支えてあげる」と言った時の写真があります。夫は後からその写真を見てうれしそうにしていました。