著者のコラム一覧
内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(34)無言が喜ばれたり、言葉足らずで怒られたり…お客との「会話の呼吸」は本当に難しい

公開日: 更新日:

 一度として親しく会話することはなかったが、私にとってはじつにありがたいお客であった。そんなこともあって、私はある新聞休刊日にその客のためにと思い、スポーツ新聞を購入したことがある。お客がクルマに乗り込んできたとき「一般紙は休刊ですが、お読みになりますか」とスポーツ新聞を差し出した。しかし「けっこう」と冷たくひと言。その後は目を閉じて、品川の会社まで無言だった。なんだか拍子抜けした気分のまま、私はハンドルを握りつづけていた。けれども降車の際「お気遣いありがとう」と小さな声で囁いた。“余計なお世話”をした私はその言葉に救われた気分だった。

 ある日、お客の海外赴任によって、この不思議な関係は途切れたが、間違いなくビジネスパーソンとしては一流の人だったのだろう。決してタクシードライバーをバカにしているわけではないのだろうが、「世の中には変わった人がいるものだ。この人の部下は大変だな」と思ったものだ。

 とにかく、何年この仕事をやっていても、お客との会話の呼吸はむずかしい。会社の規則通り、必要なこと以外無言を通していても、反応は同じではない。「運転手さんが静かな人でよかった。よくしゃべる運転手さんは苦手」と感謝されることもあれば、降車の際に「なんか怒っているのかと思った」といわれることもある。

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…