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内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(34)無言が喜ばれたり、言葉足らずで怒られたり…お客との「会話の呼吸」は本当に難しい

公開日: 更新日:

 長くこの仕事をつづけていても、接し方のむずかしいお客がいる。こちらが丁重に行き先、経路を尋ねても、面倒くさそうに答えるお客もいる。終始横柄な態度を崩さない。こちらを見下しているのかもしれない。そんなお客にいちいち腹を立てていたら、この商売はつづけられないから、黙ってハンドルを握るしかない。

 まったく逆のお客もいる。「今日は暑いね。タクシーの中は天国だね」とか「景気はどうですか」などと会話を求めてくるお客もいる。

「自分からお客に話しかけてはいけない」が会社のルールだが、こういうお客にはそれなりに対応する。

 一時期、大企業の役員を、毎朝、駒込の自宅から本社のある品川まで送る定期コースを担当したことがある。土日祝日を除いて朝7時半にその方の住むマンションのエントランスで乗せ会社まで送るのだ。いつも時間ぴったりに現れる方だった。だが、一度だけ事故による交通渋滞で遅れ、15分ほど待たせてしまったことがある。マンションに到着し、事情を話し丁重にお詫びした。

 だが、咎めもしないが、返事もしない。とにかく、ドライバー相手の会話が嫌いなようで、約1年弱の期間、ほとんど話をしたことがなかった。車中では到着するまで新聞を読むのがルーティンだった。

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