業務用メーカーが造った家庭向けコーヒー焙煎器「くるくるカンカン」が3万5000円超でも売れるワケ
テレビで「鶴瓶の家族に乾杯」を見ていてひらめいた
缶には3種類のコーヒー生豆を同梱して販売する。
「最初はどこで生豆を買えるか知らない人もいると思い、専門業者に委託してこだわりの生豆をセレクトしています。焙煎器としての缶は50回以上使えますが、消耗したら生豆の入った缶詰だけでも購入できます。くるくるカンカンをきっかけに、より深くコーヒーに興味を持ってもらえたらうれしいです」
一つの缶が焙煎器と生豆の保存容器を兼ねる、この発想が単純ながら面白い。一体どのようにして思いついたのか。
「東京の南青山にあった自家焙煎コーヒーの名店の手回し式焙煎器をコンパクトにするという構想はあったのですが、どう安価に造るかが課題でした。そんな時、たまたまテレビで『鶴瓶の家族に乾杯』を見ていてひらめいたのです。缶ならいけると。なぜかは分からないですけどね(笑)」
改めて考えたら、缶なら手頃だし、軽いし、生豆も入れられる。さび止め剤を熱で蒸発させる空焼き作業が最初に必要だが、「それも一つの儀式として楽しんでもらえれば」という。
このくるくるカンカンを開発する上で一番大切にしたのは、簡単にし過ぎないことだ。
「焦げにくくはなっていますが、火力の調整というひと手間は必要です。これすらなくなったらただの作業。火力いかんで風味も変わるので、そこが焙煎の面白さと言えます」
まさに質実剛健。道具として「100年使えるものをめざした」と力を込める。
しかし、プロ向けメーカーがなぜ家庭向けの焙煎器を造ったのか。そこにはコーヒー文化への深い思いがあった。=後編を読む
(取材・文=いからしひろき)
▽福島達男(ふくしま・たつお) 1965年、大阪市生まれ。90年4月、富士珈機に入社。焙煎機器の組み立てを経て98年に取締役、2007年に4代目代表取締役に就任。23年4月に手回し式小型焙煎器「くるくるカンカン」を発売。オウンドメディア「てさぐり部」(https://note.com/kurukurucancan/)などを通じて、同商品の普及と焙煎文化の啓蒙に努めている。