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有森隆経済ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

ブラザー工業(下)ローランドDGのMBOは青天の霹靂…TOB提案「3度目の正直」もあえなく破れる

公開日: 更新日:

事実上のTOBの断念

 ブラザーとローランドDGの攻防のさなか、投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズがMBOを前提としたローランドDGのTOBを2月13日から始めると公表した。1株あたり5035円。ローランドDGを上場廃止にして、ブラザーによる乗っ取りを防ぐのが狙いだった。

 ブラザーにとってローランドDGのMBOは青天の霹靂だった。事前の告知はまったくなしだった。

 ならばと、ブラザーは“同意なき買収”に踏み切った。タイヨウの提案を上回る1株5200円で対抗TOBを行うと通告した。

 タイヨウは4月26日にTOB価格を5370円に引き上げ、期間を5月15日まで延長した。

 ブラザーは15年3月、ロンドン証券取引所に上場する産業用印刷機大手、英ドミノ・プリンティング・サイエンシズを買収した。買収額は10億3000万ポンド(約1890億円)でブラザーとしては過去最大の案件だった。

 ドミノ社の24年3月期の売上収益は1091億円。実質的な営業利益は56億円の見込み。買収前には100億円近くあった営業利益は大きく目減りしている。ドミノ社の買収は成功とは言い難かった。

 ドミノを傘下に収めることを決めたのは当時社長だった小池利和・現会長だ。ローランドDGのTOBでも陣頭指揮を執ってきた。

 ローランドDGの株価は上昇している。2月にファンドがTOBを公表する前には3800円台だったが5月7日の終値は5600円。一時、5640円と年初来高値を更新した。

 ローランドDGのMBOに決着がつくまでに一波乱、二波乱ありそうだとみられてきたが、急転直下、5月9日、ブラザーはTOB価格を引き上げないと発表。「事実上のTOBの断念」(M&Aに詳しいアナリスト)と受け止められている。

 次は、どこをM&Aのターゲットにするのかと同時にM&A路線を進めてきた小池会長の責任問題が浮上してくる。

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