ブラザー工業(下)ローランドDGのMBOは青天の霹靂…TOB提案「3度目の正直」もあえなく破れる
事実上のTOBの断念
ブラザーとローランドDGの攻防のさなか、投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズがMBOを前提としたローランドDGのTOBを2月13日から始めると公表した。1株あたり5035円。ローランドDGを上場廃止にして、ブラザーによる乗っ取りを防ぐのが狙いだった。
ブラザーにとってローランドDGのMBOは青天の霹靂だった。事前の告知はまったくなしだった。
ならばと、ブラザーは“同意なき買収”に踏み切った。タイヨウの提案を上回る1株5200円で対抗TOBを行うと通告した。
タイヨウは4月26日にTOB価格を5370円に引き上げ、期間を5月15日まで延長した。
ブラザーは15年3月、ロンドン証券取引所に上場する産業用印刷機大手、英ドミノ・プリンティング・サイエンシズを買収した。買収額は10億3000万ポンド(約1890億円)でブラザーとしては過去最大の案件だった。
ドミノ社の24年3月期の売上収益は1091億円。実質的な営業利益は56億円の見込み。買収前には100億円近くあった営業利益は大きく目減りしている。ドミノ社の買収は成功とは言い難かった。
ドミノを傘下に収めることを決めたのは当時社長だった小池利和・現会長だ。ローランドDGのTOBでも陣頭指揮を執ってきた。
ローランドDGの株価は上昇している。2月にファンドがTOBを公表する前には3800円台だったが5月7日の終値は5600円。一時、5640円と年初来高値を更新した。
ローランドDGのMBOに決着がつくまでに一波乱、二波乱ありそうだとみられてきたが、急転直下、5月9日、ブラザーはTOB価格を引き上げないと発表。「事実上のTOBの断念」(M&Aに詳しいアナリスト)と受け止められている。
次は、どこをM&Aのターゲットにするのかと同時にM&A路線を進めてきた小池会長の責任問題が浮上してくる。