映画監督・三上智恵さん「自分たちで『戦雲』を作り出している現実を直視してほしい」
三上智恵(映画監督)
在日米軍基地の7割が集中する沖縄県の軍事要塞化が加速している。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、岸田政権は前代未聞の「代執行」を経て工事再開を強行。海洋進出を強める中国をにらんだ自衛隊の南西シフトも進む。いまにも戦争が始まりそうだ。ドキュメンタリー映画「戦雲」(16日公開)は、この国の現在地を思い知らせてくれる。民意を無視したなし崩しの軍国化は国防に資するのか。今度は誰が犠牲を強いられるのか。メガホンを握った監督に聞いた。
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──「沖縄と戦争」を主題にした5作目は、自衛隊の南西シフトに焦点をあてています。2016年以降、与那国島、宮古島、石垣島に陸上自衛隊駐屯地が次々開設。宮古と石垣に続き、与那国や沖縄本島のうるま市にミサイル部隊が配備される計画で、敵基地攻撃能力のある長射程ミサイルが持ち込まれようとしている。自衛隊容認派の住民も懸念を抱いています。
この作品で伝えたいのは「基地被害に苦しんでいる沖縄」ではありません。中国や北朝鮮の脅威が喧伝される中、米軍の戦略に沿って自衛隊、そして日本の国土が利用される現実に目を向けてほしい。米軍は米国ではなく、日本で戦争する。国防を主たる任務とする自衛隊が米国の戦争に巻き込まれ、先島諸島の住民は政府が「武力攻撃予測事態」と認定したら島を捨てて逃げなければいけない。そんなアイデアを受け入れてきてしまったこの10年の流れをご存じでしたか? 恐怖、悔しさ、悲しさに包まれている地域があることを知っていますか? こう問いたいんです。米軍基地や自衛隊配備に対する「賛成」「反対」を議論する局面はとうに越えています。
──フェーズの変化が共有されたのはいつごろですか。
共通認識になったのは21年末です。共同通信の「日米共同作戦計画」の原案スクープが契機です。台湾有事を想定した米軍のEABO(遠征前進基地作戦)に基づき、米軍と自衛隊が一体となり、南西諸島を縦横無尽に使った対中戦略を練っている。米軍の小規模部隊が攻撃しながら島から島へと移動して戦うというのです。
──昨年11月に改編されたMLR(海兵沿岸連隊)が実行部隊ですね。
島が再び戦場になる。後方を担う自衛隊が防戦に当たらされる。米軍基地に反対しているだけでは平和に暮らすことはできない。沖縄全体の危機感が急速に、音を立てて切り替わった感がありました。でも、全国には広がらないんですよね。
──最西端の与那国では陸自配備の是非をめぐり、15年2月に住民投票を実施。賛成632票が反対445票を上回り、政府の決定を追認した形になったものの、日米共同統合演習の現場となって、16式機動戦闘車が公道を走るようになり、カメラを向けた住民は不安を募らせていました。
与那国は「台湾に最も近い」「台湾から110キロに位置する」という枕ことばを最近よく付けられますが、近いという理由で危ない目に遭ったことはありません。中国が近い将来、台湾有事を引き起こすかどうかは不明なのに、このあたりが戦場になると。そう煽る日米の政府や報道が軍事体制を強化させている。事実として見えているのはこれだけです。
──自衛隊を好意的に見ていたカジキ漁師の「川田のおじい」が海上保安庁の巡視船が増えたことで「ここに自衛隊があるからじゃないか」と次第に案じるようになり、反対派の急先鋒に立った畜産農家の小嶺博泉さんが「なんちゅう犠牲がこの島にはのしかかっているんでしょう」と言っていたのが印象的でした。
ミサイルが飛び交うと言えば怖がるのは当たり前だし、自衛隊に対するスタンスにしたって揺れ動くのが当たり前。過去の住民投票を持ち出して「与那国の人たちは陸自配備に賛成したんでしょ」とか言う人は意地悪です。情報過疎の離島で、自民党の国会議員が頻繁にやって来ては「台湾有事が起きたら大変なことになる」「自衛隊が島を守る」と実力者たちを説き伏せたんですから、「お願いします」となりますよ。そもそも、なぜ最初に攻撃されるのが南西諸島で、それも与那国からなのか。おはじき取りじゃあるまいし、何の根拠もありません。