<第13回>親方は一度やったら辞められない
「え? ウソだろ?」
焼き肉をつつく手を止めた幕内力士が、もうひとりの力士の顔をまじまじと見つめた。
「マジっスよ。夏はエアコン一切禁止。冬もよほど寒くないと暖房つけちゃいけないって言うんスよ。こうやって外食した方が暖房があるんで、まだマシっス」
こう言うと、年下の力士はため息をつきながら肉を口の中に放り込んだ。
相撲部屋の経営は力士の人数や番付によってまちまち。しかし、それでもエアコン代の節約を強いられるほどに切羽詰まった部屋などあるのだろうか。相撲部屋は協会から結構な金額を支給されているからだ。
まず、幕下以下の力士1人に月7万円、年間にして84万円が養成費として支払われる。これは十両以上になると養成奨励金という名目に変わる。年間にすると、十両114万円、平幕126万円、小結・関脇が156万円、大関216万円に横綱で276万円だ。
加えて場所ごとの部屋維持費、稽古場維持費はそれぞれ、力士1人あたり11万5000円と4万5000円。年6場所なので、年間なら96万円になる。