長嶋監督の「不敗神話」が崩壊した日
酔った野茂が吉井に言った言葉とは?
12月27日、半分、サインするつもりで臨んだ長嶋監督との最後の交渉の席で、しかし、脳裏をよぎったのは近鉄の後輩で当時、ドジャースのエースとして活躍していた野茂英雄の言葉だった。
「前日の夜11時ごろ野茂から電話があったんですよ。『これから出てきませんか?』って。で、西麻布に出掛けたら、野茂はもう酔ってたんですけど、『悔いを残したら絶対にダメですよ』と。野球をビジネスとして考えたいと思ったのは事実ですし、巨人の条件も魅力的でした。でも、最高のレベルでやってみたいという気持ちは、結局、変わらなかったんです」
メッツからは当初、年俸50万ドル(約6500万円)の1年契約を提示されたが、メディカルチェックで肩、肘に消耗があると診断され、年俸は20万ドル(約2600万円)に。ヤクルトでの97年の年俸が9200万円だったから、基本給が大幅に下がってのメジャー挑戦だった。
吉井は渡米前、長嶋監督に電話で改めてメジャー挑戦を報告した。「これからキャンプに行ってきます」と伝えると、「そうか! 頑張れよー!」という返事。「長嶋さんも頑張ってください」と言うと、「頑張るよー!」という例の甲高い声が返ってきたそうだ。
「電話口の長嶋さんは明るく、熱く、心から応援してくれているのがよく分かりました。本当に懐の広い方だと思った。メジャーで何が何でも結果を出すんだという気持ちになりましたね」