作家・神崎京介氏 ゴルフ仲間だった故長友啓典さんを追悼
いつだったか、ラウンド前に、
「今度こそ、弱点のバンカーを克服したよ」
とおっしゃったことがあった。そんなことをご自分から切り出すのは珍しいので、よほど自信があったのだろう。実際、バンカーでの大叩きはなかった。そして、その時の「握り」は負けた。
長友さんは、わたしにとっての数少ない「握り」の相手だ。20歳も年上の長友さんへのハンディはハーフで4つ。賭けるのはラウンド後の飲み物代。可愛いものだったが、それでも長友さんはいつも真剣だった。
そして、負けず嫌いだった。だが、勝てば何でもいいということはなかった。勝ちが2度続いた時、ハンディを増やしましょうかと申し出たことがあった。するとすかさず、
「いいの、いいの、このままで。たくさんハンディもらって勝っても楽しくないよ」
と断り、人を穏やかにさせてくれる笑顔を浮かべたのだ。
いつだったか、バンカーからの脱出に5打を費やしたことがあった。打っても打っても出ない。なのに長友さんは、バンカー内でも、ホールアウト後でも、いつもの穏やかな表情だった。