【六川亨氏特別寄稿】ハリルホジッチ監督招聘の内幕
劇薬の指揮官 ハリルホジッチを不退転の決意で招へいした
霜田氏が、2014年ブラジルW杯後に原博実JFA専務理事(現Jリーグ副理事長)と熟慮の末に招聘したアギーレ監督は15年2月、スペインリーグ時代の八百長疑惑で契約が解除されることになった。
「次はどんな監督が来るのか? と選手は注視していたと思いますが、アギーレに似たタイプの監督を連れてくるのは安直過ぎる。技術委員長に就任した14年はブラジルW杯が未勝利に終わり、年代別のU―16、U―19代表がアジア予選敗退。U―23代表もアジア大会ベスト8止まり。日本サッカー全体が低迷していました。次の代表監督はエネルギーとバイタリティーがあり、強烈なパーソナリティーの持ち主がいい。ハリルホジッチ監督は劇薬なので、チームは初め動揺するかもしれないが、それでもいいのでは―――と思いました。もちろん本音では早く適応してほしいと思っていましたが、不退転の決意で招きました」(霜田氏)
この決断を原JFA専務理事と大仁邦弥JFA会長が、後押ししたことも見逃せない。技術委員長としては、年代別カテゴリーからピラミッド型の強化指針を作成。それを木村浩吉JFA技術委員との二人三脚で推し進め、16年には全年代別カテゴリーが、アジアの予選をクリアして日本を世界の舞台に導いた。
霜田氏が、06年ドイツW杯以降の歴代外国人監督をこう解説する。
「オシムさんとザックさんは日本のストロングポイントで勝負する。相手を日本の土俵に持ってくるタイプです。アギーレとハリルは《不得手の部分にも積極的に取り組んだ》。日本の武器であるスピードとアジリティーを伸ばしながらフィジカルや球際の攻防など弱点を克服しようとしたのが、アギーレとハリルと言ってもいいでしょう」
ハリルホジッチのサッカーとは一体、何か?
「必ず強調するのは、キレイで良いプレーを目指すだけではなくて《戦いなさい》です。戦わなかったら、二度と代表には呼びません。あくまで勝つことが目的。そのために《戦いなさい》と言い続けます」(霜田氏)
管理するイメージが強いハリルホジッチ監督だが、ピッチでは「自己判断を求める」という。
「ワンタッチでやれと言っても、ドリブルしてはいけないとはひと言も言わない。プレーに多くの選択肢を持ち、ピッチでは選手に自由を与えている。この辺りはオシムと共通している。むしろザッケローニの方が『システムの中でこうしなさい』とか、プレーコンセプトがはっきりしていたと思います」と振り返る霜田氏。
7日のシリアとのテストマッチ後に「いくつかのテストを実戦さながらのテンションでできました。この試合でつかんだ感覚をもとに戦略を統一し、チーム全員でイラクと戦ってほしい」とエールを送ってくれた。