キング・カズ編<下>「キング・カズ」の命名者は誰だ?
カズこと三浦知良のニックネームが「キング」であることは周知の事実である。しかし、誰が命名したのか、そのことを知っているファンは少ないのではないだろうか。
「キング・カズ」の命名者は、アイルランド生まれの記者デビット・ジェイムズ氏。同氏は1993年にカタール・ドーハで行われたアメリカW杯アジア最終予選の日本ー北朝鮮戦を取材し、ガルフ・タイムズ紙に寄稿した記事のタイトルに「KING KAZU!」というタイトルをつけたのだ。
オフト監督率いる日本代表は、ドーハで初戦のサウジアラビア戦を0-0で引き分け、第2戦はイラン相手に1-2で敗れた。残り3試合。北朝鮮、韓国、イラクと強敵が控えていたため、もう1敗もできない状況だった。しかし、北朝鮮をカズの2ゴール、1アシストの活躍で3-0と下して息を吹き返した。
そんなカズのプレーを見て、デビット記者は「キング・カズ」と命名したのだった。
余談になるが、今年9月に日本サッカー協会の殿堂入りを果たした元日本代表<背番号10>木村和司氏は、1985年のメキシコW杯アジア1次予選のシンガポール戦での活躍から、地元ストレート・タイムズ紙のジェフリー記者によって「デストロイヤー」と命名された。
「キング・カズ」は、カタールにとどまらず、現地で取材した日本人記者が帰国して広め、一般のサッカーファンにも浸透していった。カズ自身は以前、「キング」が定着して自然に受け止められるようになったのは、2004~2005年に在籍した「神戸や横浜FC時代辺り」と「ナンバー誌」で回想していた。
■そもそも「キング」とはペレのことだった
そもそも「キング」と言えば、世界的にはペレのニックネームとして有名だが、2人ともブラジルの古豪サントスに在籍していただけに、これも何かの縁なのだろう。
ペレが「王様」ならジーコは「神様」と言われているが、これが通じるのは日本だけ。ジーコはブラジルの名門フラメンゴの本拠地マラカナンでの最多ゴール記録を持っており、銅像が建てられているほど。地元では「マラカナンの英雄」と言われていた。
これまでカズに2回ほど単独インタビューをしたことがある。いずれもマネジャーから「取り敢えず(現地に)来て下さい。滞在中に必ず時間を取りますから」という口約束だった。しかし、一度約束したらカズは必ず守る男である。なので不安は感じなかった。
最初はシーズン開幕前に沖縄での自主トレ中に行った。2回目は2007年2月に熊本で行われた横浜FCのキャンプ中だった。横浜FCに移籍して2年目の前年は39試合出場、6ゴールでチームを初のJ1リーグに導いた。チームの躍進に貢献した
キャプテンのFW城彰二は引退したが、横浜MからFW久保竜彦やMF奥大介(故人)ら実力派選手を獲得し、高木監督(現大宮監督)に率いられたチームは練習も活気にあふれていた。
そんな中、カズは1時間半ほどのチーム練習が終了後、恒例の沖縄キャンプでもそうだったように個人トレーナーの指導の下、自主トレで汗を流した。ポールの間をすり抜けるスラローム走ではタイムを計り、ラダーやミニハードルを使った練習で俊敏性の維持に努める。カズより年下のチームメイトたちは見学する選手もいれば、ホテルに引き上げる選手もいた。「チーム・カズ」として自費でスタッフを雇い入れ、常に最高のコンディションを保つ努力を怠らない。だからこそ40歳(当時)を目前にしても「現役で活躍できるのだ」と納得したものである。
■「もうすぐ40歳です」と笑ながら言ったカズ
開店前のホテルのレストランの一隅で行われたインタビューは、1時間ほどだったろうか。その後はマネジャーを交えての雑談になった。話題は年齢に移り、カズは「もうすぐ(2月26日が誕生日)40歳ですよ」と笑いながらではあるが、現役引退が近いことを示唆するような物言いだった。
そこで筆者は、イングランドの伝説的なFWで1956年にナイトの称号「サー」を授与されたスタンレー・マシューズは「55歳まで現役でプレーした」ことを伝え、カズにも「マシューズの記録を目指してほしい」と励ました。するとカズは「55歳か。しんどいぞ!」と叫んだものの、その目は笑っていたのが印象的だった。
あれから13年が経過した。カズはまだ現役でプレーを続けている。
9月23日の川崎F戦はキャプテンとしてスタメン出場を果たし、53歳6カ月28日というJ1最年長出場記録を大幅に更新した。恐らく2度と破られない記録だろうし、まだまだ更新の可能性はある。50歳14日というJリーグ最年長得点記録の更新にも期待がかかる。
かつて「しんどい」と言った55歳での現役も現実味を帯びてきた。
果たしてキングは、いつまで走り続けるのか。
個人的には、カズがユニフォームを脱ぐ日が来るとは、まったく想像もできない。同時代を生きている我々は「キング」の雄姿を長く見られることの幸せをもっと実感するべきだろうーー。