著者のコラム一覧
六川亨サッカージャーナリスト

1957年、東京都板橋区出まれ。法政大卒。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。01年にサカダイを離れ、CALCIO2002の編集長を兼務しながら浦和レッズマガジンなど数誌を創刊。W杯、EURO、南米選手権、五輪などを精力的に取材。10年3月にフリーのサッカージャーナリストに。携帯サイト「超ワールドサッカー」でメルマガやコラムを長年執筆。主な著書に「Jリーグ・レジェンド」シリーズ、「Jリーグ・スーパーゴールズ」、「サッカー戦術ルネッサンス」、「ストライカー特別講座」(東邦出版)など。

カメルーン戦は物足りず…その理由は現状確認が目的だから

公開日: 更新日:

 スコアレスドローに終わった日本ーカメルーン戦。試合を見終えた正直な感想は「ま、こんなものだろうな」というものだった。

 その理由を述べる前に、改めてこの試合の背景を紹介しておこう。ご存じのように世界的な新型コロナの感染・拡大で3月と6月に予定されていたカタールW杯アジア2次予選は延期された。当初は10月と11月に仕切り直しの予定だった。しかし、新型コロナ禍は多少沈静したものの、地域によっては依然として猛威を振るっている。そこでFIFAとAFCはさらなる延期を決定。2次予選は来年2021年の3月と6月に、最終予選は9~11月と22年1月と3月に実施するプランに変更された。

 そこで今年10月と11月のIMD(選手を拘束できるインターナショナル・マッチ・デー)を利用して強化試合を組むことになった。ただし、日本で開催するとなると来日チームは2週間の自主隔離を余儀なくされるために試合開催は不可能だ。そこで入国に際して隔離規制のないオランダでの開催案が浮上した。

 同じ理由で日本にいる選手が渡航した場合、帰国したら2週間の自主隔離を強いられるのでJリーグへの影響は図りしれない。かくしてオランダで出入国の際に隔離制限のない海外組によるフレンドリーマッチが成立した。

 例外として、オランダが入国に制限を課しているロシアリーグの橋本(ロフトス)とセルビアリーグの浅野(パルチザン・ベオグラード)の招集は見送られ、大迫は「ブレーメン州の法律は厳しい」(原口)ためにカメルーン戦の1試合限定出場となった。

■両チームとも試合の目的は…

 試合が始まって気付いたことは「両チームの選手とも分かっているな」ということだった。タイトルがかかっているわけでもない。1年ぶりの試合だけに両チームとも試合勘を確かめたり、チームの現状を確認したりするのが主目的である。

 球際では多少の激しさはあったものの、リーグ戦の真っ最中でもあり、ケガをしないようクリーンな試合だった。それでも来月にアフリカ・ネーションズ杯の予選でモザンビーク戦を控えているカメルーンの方が仕上がりは早かった。

 立ち上がりからショートパスをつないで日本陣内に攻め込んでくる。これに対し日本は、マイボールにしてもカメルーンの攻から守への素早い切り替えに手を焼き。なかなか前線へボールを運べなかった。

 現在の日本の目標は〈W杯ベスト8以上〉のはずだ。そのためには格上の相手からいかにしてゴールや勝点を奪うか、が重要となる。そのために目指しているのがショートカウンターだ。ボールを保持して細かくパスをつなぎ、右FWタベクの突破からゴールを狙うカメルーンは、ショートカウンターを仕掛ける格好の相手と言えたが、前半の日本はほとんどカウンターを仕掛けることができなかった。

 その一因として1トップの大迫が挙げられる。クラブでの不調を引きずっているのか、前線でボールを収めて攻撃の起点になることができない。後半4分には伊東のクロスをヘッドで狙ったものの、ゴール枠に飛ばすことができなかった。いつもの大迫なら確実にゴール枠に飛ばしていただろう。

■攻撃に物足りなさが残った日本

 司令塔を務める柴崎だが、ここ1年間は「その前の2年間を含めるとサイドが主戦場」だったせいか、あるいは移籍したばかりの影響か、存在感を発揮したとは言いがたい。彼らを含めて守備では善戦した日本だったが、攻撃に関しては物足りなさが残った。一般的に攻撃に関しては「選手同士の連係が大事」とか「意思の疎通が必要」と言われる。森保監督も「まだまだ相手を崩す絵を書けていない」「1年ぶりの代表の試合ですり合わせもしていなかった」となどと連携不足を認めた。

 しかし、クラブチームと違い、代表チームはコンビネーションを熟成する時間が限られている。もちろん、それは日本だけに限った話ではないが、いずれにしてもW杯で勝ち上がろうとすれば「個の力」による突破が必要であり、日本のような劣勢を強いられるチームにとって「強い相手と戦う中で多くのチャンスは作れないので数少ないチャンスをモノにすることが大事になる」(キャプテンの吉田)のは自明の理である。

 この試合で日本がカメルーンを慌てさせたのは、まずは前半アディショナルタイムの2分に酒井が単独ドリブルで右サイドと突破して最後は反則でストップされたシーン。あと決定機は後半4分に右CKから吉田が放ったヘディングシュートと後半アディショナルタイム4分に久保がFKから放ったシュートだけだ。とはいえ「劣勢のチームが格上相手から勝利を奪うにはカウンターかセットプレー」という定石通りの展開だったと言える。それでも物足りなさを感じさせられたのは、やはり「個の突破」があまりにも少なかったからに他ならない。

 もしもコンディションを取り戻した中島がいれば、南野も堂安も輝きを増したに違いない。彼なら「個」でも仕掛けられ、チームメイトの力も引き出せるからだ。残念ながら今回の招集メンバーに入っていないが、中島と同じ役割ができるとすれば久保ということになる。このためコートジボワール戦では是非とも久保をスタメンで起用して欲しい。

 今回は新型コロナの影響で欧州での開催となったが、日本に招いてのフレンドリーマッチでは、日本の欧州組はもちろん対戦相手も欧州組が主力になることが多い。必然的に時差調整などコンディションは良いとは言えず、試合内容も低調なものになることが多い。しかし、欧州での試合なら海外組のコンディションは崩れることがなく、日本で開催する試合よりも注目度が高くなるので対戦相手も手を抜けない。

■劣勢の試合でいかに勝機を見出せるか

 今回のカメルーン戦のように、日本は劣勢の試合でいかに勝機を見出せるか? という「W杯のシミュレーション」ができるメリットがある。

 遊び半分で来日した中南米の二流国相手に大勝して喜ぶ時代は、もう終わりにしていいだろう。真剣勝負の場を増やすには、今後もアウェーのマッチメイクを増やしていくべきである。入場料やスポンサー料、グッズ収入などの収益面を考慮する必要もあるがーー。

 カメルーン戦の好材料として、後半に採用した3DFを挙げたい。

 後半立ち上がりは5DFになって重心が後ろに来てしまったが、時間の経過とともにカメルーンの運動量が落ち、サポートの動きがなくなったこともあって、日本は試合の主導権を握った。

 日本人DFのサイズでは、3DFでフィールドの横幅をしっかりカバーするのは難しいと言われてきたが、酒井、吉田、冨安の3人は180㌢台で速さと高さを兼ね備えている。

 コートジボワール戦では久保のスタメン起用に加え、植田や板倉らカメルーン戦では出番のなかったCB候補による3DFも見てみたい。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • サッカーのアクセスランキング

  1. 1

    パワハラ告発されたJ1町田は黒田剛監督もクラブも四方八方敵だらけ…新たな「告発」待ったなしか?

  2. 2

    町田ゼルビア黒田剛監督は日本サッカー界の風雲児か? それともSNSお祭り炎上男か?

  3. 3

    イメージ悪化を招いた“強奪補強”…「悪い町田をやっつける」構図に敵将が公然批判でトドメ

  4. 4

    Jリーグ界“世紀の悪役”の素顔とは…実は笑いが絶えない取材現場、森保一監督からアドバイスも

  5. 5

    カタールW杯正GK権田修一「26年大会も出場したい」に立ちはだかる壁の正体…1日にハンガリー移籍

  1. 6

    徹底した“勝負至上主義”が生む誤解…特定チームのファンをブチギレさせ大炎上した発言とは

  2. 7

    発言の真意を説明も「言い訳するな!」と火だるま…“出る杭”としてネットではオモチャに

  3. 8

    なでしこ 格下コロンビアと「物足りない」ドロー決着…それでも光った途中出場DFの強心臓

  4. 9

    3年連続J1得点王、元日本代表の大久保嘉人「スペイン人になるよ、オレ!」仰天発言の舞台裏

  5. 10

    森保ジャパン「W杯初8強入り」の条件とは…世界最速&代表史上最速で本大会切符も、課題だらけ

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    中居正広氏《ジャニーと似てる》白髪姿で再注目!50代が20代に性加害で結婚匂わせのおぞましさ

  2. 2

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い

  3. 3

    佐藤健は9年越しの“不倫示談”バラされトバッチリ…広末涼子所属事務所の完全否定から一転

  4. 4

    広末涼子容疑者は看護師に暴行で逮捕…心理学者・富田隆氏が分析する「奇行」のウラ

  5. 5

    パワハラ告発されたJ1町田は黒田剛監督もクラブも四方八方敵だらけ…新たな「告発」待ったなしか?

  1. 6

    矢沢永吉「大切なお知らせ」は引退か新たな挑戦か…浮上するミック・ジャガーとの“点と線” 

  2. 7

    中日井上監督を悩ます「25歳の代打屋」ブライト健太の起用法…「スタメンでは使いにくい」の指摘も

  3. 8

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  4. 9

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  5. 10

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは