追憶のマラドーナ 90年W杯ブラジル戦で見せた一瞬の輝き
■たった1人、1プレーでサッカー王国を倒す
アルプス山脈から吹き下ろす風が強く、陽が落ちると肌寒さを感じるスタジアムで<マラドーナの一瞬のきらめき>を目撃した。開始直後からブラジルの反則まがいのプレーに倒れてばかりのマラドーナが、後半79分にドリブルでカウンターを仕掛けていった。3人がかりのマークをモロともせずに突進してスルーパス。これを快足FWのカニーヒアが、GKも抜き去って決勝点を決めた。
たった1人で、それも1プレーでサッカー王国を倒してしまった。
この目でしっかりと焼き付け、4年前の絶好調マラドーナが戻りつつあるのではないか、と期待させるに十分だった。
メキシコ大会・イングランド戦のマラドーナの<世紀のゴール>をスタジアムにいながら、取材の関係でスタンドから離れたことで見逃した筆者は、イタリア大会では決勝トーナメント1回戦から決勝までアルゼンチンを追い掛けた。リベンジというわけだが、ブラジル戦が行われたトリノは別にして準々決勝はフィレンツェ、準決勝はナポリと試合会場が、ベースにしていたローマから近かったという理由もある。