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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

元“年俸120円Jリーガー”安彦考真 プロデビュー戦で西武ドラ2位を圧巻1RKOの撃破!

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 元「年俸120円Jリーガー」で2020年末から格闘家に転向した安彦考真(44=Executive Fight 武士道)が2月16日、立ち技格闘技の「RISE FIGHT CLUB」で待望のプロデビューを飾った。

 ◇  ◇  ◇

 記念すべき初陣の相手は、元西武投手の相内誠(27=K26)。プロ野球とプロサッカーが真っ向勝負する構図となり、「これで負けたら俺はサッカー界から追放される」と危機感を募らせたが、3分×3ラウンドの試合は1ラウンド1分51秒でKO勝ち。電光石火の快進撃に会場は大いに盛り上がった。

■RISEのリングでプロデビュー果たす

 2021年4月の格闘家デビュー戦からアマチュア選手相手に3戦全勝。実績を積み上げていった安彦だが、転身時から大目標に掲げていた2021年大晦日のRIZIN出場が叶わず、激しいショックを受けたという。

「12月25日から1月10日くらいまでずっと39度の高熱が続いたんです。PCR検査も陰性で原因不明。何も食べられず、体重が4キロちました。カズ(三浦知良=JFL鈴鹿)さんの次男・三浦孝太選手の出場が発表された段階で『もうダメだな』と感じたんで、張り詰めていたものが切れたのかな」と本人も苦笑する。

 その彼を奮い立たせたのが、今回のRIZEからのオファー。「僕はRIZINとRIZEのどっちでも行けるスタイル」と12月の時点でも話していただけに、プロからの本気の誘いには胸が高鳴った。

 1月2週目から本格的にトレーニングを再開。昨年は日本刀を使った練習や動物を追いかけて野性を研ぎ澄ませる試み、走り方の改善など多彩なアプローチをしてきたが、今回は格闘技の技術向上に努めた。

相内の特徴を徹底的に分析した

「元K-1王者の小比類巻(貴之)会長、RISEの京介選手と一緒に練習しましたけど、サッカーに例えたら名門バルセロナで練習しているようなもの。物凄い英才教育で、あの環境なら間違いなく成長できる」と本人も自信を深めた。

 さらに対戦相手が相内に決まると小比類巻とともに西武時代の投球フォームなど特徴を徹底分析。対策を練った。

「彼は(投手時代の踏み出し足の)左足にググっと重心が乗るんで、そこを内側から、外側からと攻めればそうそうパンチを繰り出せない。(相内選手の)効き目である右側に自分(の姿)が入ると強烈なストレートをもらうんで、それも回避すべく、左目側に回り込むように意識しました。そして相手(の体)が沈んだところでジャブで顔面をつぶし、最後はボディ。そういうプランを立てました」と安彦は言う。

 とはいえ、相内は安彦より17歳年下の27歳。身長も10センチも高い185センチだ。若さに体力、そしてリーチで勝る相手に分があると見られるのも仕方ない。

「たかがサッカー」発言に怒り心頭

 しかも、中学時代に児童養護施設で過ごし、10代の頃から仮免許運転違反や飲酒・喫煙など問題を起こしてきた彼は「悪童キャラ」としても有名だ。実際、今回の対戦前にも「練習しなくても大丈夫」と上から目線の発言を繰り返した。

 これには「ケンカは嫌い」と言う安彦も発奮せざるを得なかった。

「数々の(挑発的)発言は、相内君のパフォーマンスだと思いますけど、『たかがサッカーでしょ』っていうのはちょっと頭に来ましたね。『才能あるやつは野球に行くんだ』っていう発言も『こいつどこにかしてやろう』と思いましたね」と闘志を燃やした。

 迎えた本番。安彦は開始30秒で相手の顔面に右ストレートをお見舞いするとロープ際へ追い込んだ。その後、指が口の中に入るアクシデントが発生。ドクターチェックを受けて再開する。1分が過ぎたところで再び右ストレートをヒットさせ、初ダウンを奪うと、直後に2度目のダウンでKO勝ち。

大晦日のRIZIN出場を目指す

 意外なほどの圧勝劇に本人は飛び上がって絶叫を繰り返し、セコンドの小比類巻と熱い抱擁を交わした。

「デカい相手との対峙はサッカーの経験が生きたかな。40歳でJリーガーになった時はFWだけど、それまではずっとDFだったから、抜きに来る相手の対応は慣れていたんですよね。それに小比類巻道場でも大柄なカナダ人プロ選手と練習しているんで、間合いの取り方や駆け引きには適応できた。みんなのおかげで44歳プロデビュー戦を勝つことができました」

 ようやくプロ格闘家としての本格的な一歩を踏み出し、爽やかな笑顔をのぞかせた安彦。その先にあるのは、昨年末に果たせなかった2022年大晦日のRIZIN出場だ。

「『職業・挑戦者』の自分は、リングに立つ意味のあるところなら必ず行く。RISEはもちろん、RIZINも貪欲に目指します。そうじゃないとまた年末に高熱で倒れるからね」

 冗談交じりに笑った44歳のおっさん格闘家は「何事も遅すぎることはない」という自らの矜持を全身全霊をかけ、リングの上で示してくれた。

 これからも、彼のチャレンジには目が離せないーー。

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