土俵復帰した蒼国来は思わず「支度部屋の視線がつらかった」と漏らした
この場所は6勝9敗。負け越しましたが、それでもブランクを考えれば6勝は立派も立派。いくら日野自動車のラグビー部の練習に参加していたとはいえ、相撲を取る稽古はほとんどしていなかったのですから。
場所前、私は彼に「相手は親の敵だと思って向かってくるから気をつけろよ」とアドバイスをしました。なにせ、あの騒動で土俵に戻れた力士は蒼国来ただひとり。裁判で潔白は証明されましたが、それまで色眼鏡で見られることもありましたから。本人も後に「支度部屋での視線がつらかったです」と話していました。周囲に再び溶け込むまで、1年はかかったそうです。私が思うに、蒼国来は温和で優しく、「オレがオレが」というタイプではない。そんな性格だからこそ、他の力士とも関係を修繕、うまく付き合うことができたのでしょう。
■相撲を見るのが怖かった
では復帰した場所で勝った6番はどんな相撲かというと……実はよく覚えてないんですよ。というより、怖くて1番か2番くらいしか見られなかった。
当時、私は取材に「そう簡単には勝てませんよ」などと話し、実際にそう思っていたわけですが、いざ始まったら本人と同じかそれ以上に怖くて仕方がなかったんです。
復帰した次の場所で十両に陥落しましたが、再び這い上がり、翌年から幕内に定着。本当に私の自慢の弟子なんです。 (つづく)