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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

2022年JリーグMVP岩田智輝 次のW杯に出場するには「もっと修羅場をくぐらないとダメと痛感」

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岩田智輝(セルティック・DF/25歳)

「海外へ行きたい気持ちは、大分ユースに上がった頃からありました。セルティックからオファーを受けたので迷うことなく決断しましたね」

 2022年のJリーグMVPに輝き、今年1月に初の海外挑戦に踏み切った。横浜M時代の恩師であるポステコグルー監督や日本代表FWの前田大然らがいる新天地は、適応しやすかったようだ。しかし、ここまでの公式戦出場は5試合。いずれも途中からピッチに立った。

「強度もスピードも環境も全て違う。ここから出番を増やして次のW杯を狙っていきたいですね」と本人は意欲を燃やす。

  ◇  ◇  ◇

 日本代表の森保一監督から守備のマルチ能力を早いうちから評価され、2019の年コパアメリカや2022年の東アジアE-1選手権に参戦した。昨季横浜のJ1タイトル獲得の原動力になったことで、ひと際注目される存在になった。

 惜しくもカタールW杯は逃したが、全力で日本を応援していたという。

「日本でテレビで見ましたけど、やっぱりレベルが高いな、と。自分が今年から海外に来て、世界基準との距離感を肌で感じたことで『彼らはあれだけのことをやっていたんだ』と再認識しました。律(堂安=フライブルク)や滉(板倉=ボルシアMG)君、遠藤航(シュツットガルト)さんらを筆頭に(個々の選手が)自分の良さを出せていたし、対等にやれていた。自分が次の2026年北中米W杯に出たいと思うなら、もっと修羅場をくぐっていかないとダメだと痛感しています」

 危機感を抱いて飛び込んだ異国の挑戦は、生やさしいものではなかった。

 前田や古橋亨梧らが活躍しているために「セルティックに行けば日本人選手はすぐに試合に出られる」という印象が強いだろうが、アンカー(守備的MF)を主戦場とする彼のライバルは、主将を務めているマクレガーである。指揮官も特別な信頼を置く選手だけに、そう簡単には外さない。

攻撃面を伸ばすチャンス

「試合に出ないと評価されないので出場することが第一なんですが、僕の目前には高いハードルがある。マクレガーのボールさばきやゲームコントロールは、見ていて安心感がある。自分も勉強になっているくらいです。僕の武器はボール奪取力ですが、スコットランドでのセルティックは、大半のゲームで主導権を握れる。となるとボールを奪う回数は少なくなる。今は、自分がフォーカスしてこなかった攻撃面を伸ばせるチャンスだと捉えています。守備のバランスを見つつ、前に顔を出して、得点に絡めるようになりたいと考えながら取り組んでいます」

 2月に出た2試合は旗手怜央らインサイドハーフの選手との交代。少し前目に入った。日本代表の大黒柱・MF遠藤航も所属クラブでその位置を担っている。

「ポスト遠藤」の呼び声もある岩田にしてみれば、先輩は参考になる存在だろう。

「航さんと面識はないですけど、僕と同じ25歳で海外に行ってシュツットガルトに移籍し、今の地位を築いた。日本人の可能性を広げてくれた選手だと思います。海外でキャプテンもやるなんて本当に凄い。強豪相手にボールを奪う能力も屈指ですよね。僕もボール奪取のスペシャリストになれれば、日本代表における重要性は高まってくるのかな、と。試合に出た時は『対人では絶対に負けない』という気持ちでやってます。セルティックの選手はみんな上手いですし、日本時代とは感覚が違う。練習から(伸ばしたい部分を)磨けるのは大きいと思います」と目を輝かせる。

 そんな彼のポリシーは「他人と比較しないで自分に矢印を向ける」ということ。

 転機となったのはJ大分時代。ケガも重なって試合に出られなかった20歳の頃は「何で自分はこうなのか……」と周囲と比較しては空回りを強いられた。

 そこから救ってくれた恩人がいた。

「2018年まで大分で一緒にプレーした修行智仁(J3今治GK)さんが『他人を気にするな』『日々の練習を100%でできたか考えろ』と毎日のように言ってくれ、人と比べることを止めました。マリノスに移籍した2021年の最初も、試合に出られない時期がありましたけど、シンプルに自分が劣っているから頑張るしかないと思えた。今も同じなんです」と前向きだ。

 そうやって努力する先には来季の欧州CL、そして3年後のW杯がある。「もともとCLに出るのが夢だった」という岩田にしてみれば、スコットランドリーグ制覇目前のセルティックにいる意味は大きい。

 今季終盤に実績を積み上げ、中盤でのチーム内序列を高めて来季を迎えることができたら、長年の悲願である大舞台に立てるはず。

 前田大然も「CLに出ていたことでW杯でも物怖じせずに戦えた」と強調していたが、岩田にとっても大きな布石になるのは間違いない。

「カタールW杯を見て、次はベスト8の壁を絶対に超えてやりたいという気持ちは強まりました。自分がその力になりたい、と。そんな歴史を作れるチャンスは4年に1度しかない。下からはマリノスの後輩である(MF藤田譲瑠)チマたちも追い上げてきますし、歩みを止めている暇はない。1日、1日がすごく大事ですね」

 同い年の三笘薫(ブライトン)、ともにコパアメリカを戦ったひとつ下の冨安健洋(アーセナル)らの活躍も刺激になっている。

 同じ東京五輪世代の躍進を目の当たりにする彼は「次は8強の壁を超えられる」と言う。

「日本の16強敗退は4度目ですけど、内容が全然違うし、今回は突破してもおかしくなかった。今は薫やトミのような選手もいるし、そういうレベルに行ける選手も沢山いる。上に行けないことはない。早く自分もその領域に辿り着きたいです」

 2018年ロシアW杯で出番なしだった遠藤が目覚ましい飛躍を遂げたように、岩田には3年後の大舞台で躍動してほしい。

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