他球団はノーマークの中嶋裕之をドラフト5位で指名、近鉄の名物スカウトに「脱帽です」と言わしめた
鈴木はよく、アポなしで伊丹北へ「来たよー」という感じで顔を出したという。
「昔は今ほどセキュリティーが厳しくなかったですから」と笑う鈴木だが、当然、学校の警備員は足しげく通うスカウトの顔は覚えていた。
「伊丹北は特別だったかもしれませんけど、僕はもともと監督や部長に、予告せずに練習を見に行くことの方が多かったですね。プロのスカウトが来るというので日頃と違う練習をしたり、選手が緊張して身構えたりしてしまいますから」
他球団のスカウトが伊丹北を漏らさずチェックしていれば、おそらく中島の存在は目に留まったに違いない。
「投手をやっていて、130キロくらいは投げてましたけど、最初から遊撃手として取るつもりでした。リストが強くて足も速かった。打撃練習では100メートルは飛ばす。レフトのフェンスのさらに奥にあるプールに放り込んでいましたから。ただ、守備の方はまだまだ。投手とはいえ、ボール回しがまともにできないくらいのスローイングで。それを見たら誰も取れないですよ。でも、浦田さんと見に行った夏の試合で複数安打して、取ろうという方向になったんです。その意味で中島は、強運の持ち主でもあったのです」